【サステナビリティ時代の戦略眼と現実解 メルマガ Vol.7 2025年1月6日号】 2025年の展望 AIエージェントによるディスラプションとサステナビリティへの人材育成

1.社会に存在しないが本当は必要な仕組みを創造するイノベーション

こんな仕組みがあるといいのになぁ、、、 漠然とした思いを具現化するのが設計です。 しかし、漠然とした思いでしかないことをどう思いつき設計したら良いのでしょうか?

 筆者は80年代の5年間、そんな思いを叶えるために、勤めていた会社に月100万円の予算を申請をして、自動プログラミングの研究開発をしたことがあります。 言葉で書かれた要求仕様書からコンピュータが処理できるプログラムを自動的に生成する仕組みを作ろうとしたのです。しかし、当時の技術では、辞書に登録した限られた分野の言葉で書かれた仕様書からしかプログラムを生成できませんでした。 しかし、ChatGPTはある程度汎用的に筆者が実現しようとしたことを実現しています。

 ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションを非連続的な新結合による「経済発展の根本現象」(シュムペーター 1926 #1 pp.181-185)、および、「創造的破壊」(シュムペーター 1942 #2 pp.127-134)であると表現しています。生成AIは「社会に存在しないが本当は必要な仕組みの創造」であるだけでなく、まさに、イノベーションであると言えるでしょう。

2.サステナビリティという概念が形成されてきた歴史

 2003年春頃の土曜日の朝、目覚めたときに突然「心豊かさのコンソーシアム」という閃きがありました。当時は、管理会計ソリューションを考案してKPIマネジメントのコンサルタントとして活動していましたので、あまりにも突飛な思いつきでしたが、兎に角、構想書を書いて何人かの知り合いを誘い同意してもらいました。色々な人にインタビューしたり、地方にも出かけて現地を見たりもしました。しかし、自分らしい何かを見つけることはできませんでした。

 2007年に米国でサブプライムローン問題が顕在化した頃に、「変化の兆しを捉えて行動する組織を作る」という書籍を出版しました。これから大変なことが起きだろうと予感して、そんな事態に際して企業にどういう仕組みがなければならないかを考えて執筆しました。2008年のリーマンショックの直前に、かろうじて出版にこぎつけました。

 執筆に際しては、「自分らしい何か」への思いがくすぶる中で、それまでにどのような「変化の兆し」が起きていたのかを探ろうと思って様々な社会問題を深掘りしましたが、それが筆者のサステナビリティという言葉の出会いとなりました。しかし、当初は、それが何であるか全く分からなかったので、まずは、サステナビリティという概念がどのような系譜をたどって形成されてきたかを知ろうと考えました。下図「サスティナビリティ概念の発展の系譜」は、2012年頃まで継続して加筆しながら、2015年のSDGs採択までの出来事をまとめたものです。

3.サステナビリティはこれからの経済発展の仕組みとなるか

3.1. トリプルボトムラインという枠組みで考えるサステナビリティ

 1997年に提唱されたトリプルボトムライン(上図中央付近)は、財務諸表(経済の側面)だけでなく、自然環境に配慮した取り組み(環境の側面)、社会の発展に資する取り組み(社会の側面)からのトリプルの視点で帳尻を合わせるという考え方です。

 2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」を源流として、株主や投資家の利益を保護するために、おそらく2013年頃から、企業を取り巻く経営環境の変化によって生じるリスクと対応の状況を明らかにする ESG (Environment , Social , Governance)への取り組みが盛んになりました。現在では、財務諸表の公開に加えて、統合報告書(あるいは、サステナビリティ報告書)を作成して公開している企業の割合も増えています。「財務諸表+統合報告書」によってトリプルボトムラインは実現されました。

3.2. 現状のサステナビリティの枠組みは、経済発展の仕組みとしては不十分

 しかし、これだけでは経済発展の仕組みにはなりません。因果性から見れば、①リスクへの対応の裏返しとして機会の創出(ビジネス・オポティニティ)につながる、②長期的な成長が見通せることによって投資も促進される、③本業との関わりから特定したマテリアリティを起点にイノベーションを起こすことができると言えますが、「非連続的な新結合による創造的破壊」の視点から見れば十分に条件を満たしている仕組みとは言えません。本来、そこには「社会に存在しないが本当は必要な仕組み」を起点とした発想への転換が必要になるからです。

4.今起きているディスラプションと将来への方向性

4.1. 今起きているディスラプション

 ディスラプションとは社会変革を巻き起こす破壊的イノベーションです。

 ChatGPTが切り開いた生成AIという技術は、人間が文章で記述(あるいは、音声によって)して求めた動画も生成するまでに進化してきています。さらに、AIエージェント(自律型AI)を組み込むことによって、人間が求めるものを先回りして推論し自律的に回答を作り出すこともできるようになります。

 本メルマガの冒頭で記したように、現在のChatGPTは、人間の言葉で書かれた要求仕様書からコンピュータが処理できるプログラムを生成することができます。 しかし、その要求仕様書を作るのは誰でしょうか? 専門知識のある誰かでしょうか? そもそも「こんな仕組みがあるといいのになぁ」と思うのは誰でしょうか? 「社会に存在しないが本当は必要な仕組み」を考えるのは誰でしょうか?

 早晩、AIエージェントは論理的推論により要求仕様書を書けるようになります。それこそが今起きているディスラプションです。(将来的には、AIエージェントの要求仕様書をエージェントAIが書くようになり生成AIがプログラミングしてしまうでしょう)

4.2. サステナビリティとその先にあるディスラプションの方向性

 シュンペーターは「ひたすら近代化へと突き進んでいた時代のイノベーション」を経済発展の根本現象と捉えましたが、高度経済成長の負の結果として様々な社会問題を抱えている今日の世界では「サステナビリティの時代のイノベーション」でなければなりません。

 それでは、サステナビリティを起点とした要求仕様を誰が考えるのでしょうか? 生成AIとAIエージェントは、サステナビリティの視点に立って「社会に存在しないが本当は必要な仕組み」を考えることができるでしょうか? 経済視点では納期・品質・原価(設計の3要素)、効率や生産性、投資と回収等の指標に基づいて合理性を追求することができますが、環境視点(自然環境保護等)や社会視点(人権の保護等)には倫理が関わるため、論理的な合理性だけで線引きすることはできません。

 ここにサステナビリティの真の難しさがあります。生成AIとAIエージェントは、論理的にはサステナビリティの要求仕様書を書けるようになるでしょう。しかし、生身の人間やたくさんの生命を育んでいる地球環境にとって優しく安全安心でなければなりません。今の世代の人たちが享受できる豊かさのある暮らしを、将来の世代の人たちもそれ以上の豊かさを享受できる暮らしにしていかなければなりません。サステナビリティの視点に立った「社会に存在しないが本当は必要な仕組み」の要求仕様書は、人の心の機微をわきまえた人間にしか書けません。

5.サステナビリティでディスラプションを考える人材を育てる

 人的資本経営が拡がってきています。リスキリング教育やリカレント教育も盛んに行われています。それは、労働市場の変化や技術革新への対応などを想定した雇用対策であり、個々人のキャリアアップと企業の生産性向上を図るための施策です。しかし、本質的には、その先にあるディスラプションを見据えて、サステナビリティの視点に立った「社会に存在しないが本当は必要な仕組み」を考えられる人、ディスラプションのシナリオを書ける人、AIエージェントを適正にコントロールできる人の育成に重きを置いて考えていかなければなりません。  (2025年の年頭に、期待を込めて)



本メルマガは弊社ホームページのコラム “未来への歴史” をもとに作成しています。“未来への歴史” とは、サステナビリティの未来社会を思い描いて日々書き綴った記事を思考の系譜を歴史として振り返ることができるようにと意図したものです。

  • 『生成AIとAIエージェント』についてはこちらのサイトをご参照下さい。
  • 『変化の兆しを先読みして行動を起こすハイパフォーマンスコミュニケーション』についてはこちらのサイトをご参照下さい。
  • 前回メルマガ『Well-being をもたらす組織変容とデータドリブン経営』はこちらのサイトをお読みください。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

【参考文献】

  1. ヨーゼフ・シュムペーター、塩野谷祐一, 中山伊知郎, 東畑精一(共訳)、『経済発展の理論(上下)』 ,岩波文庫 白147-1,2、岩波書店、1977. (原著第二版 1926. (初版は1912))
  2. ヨーゼフ・シュムペーター、中山伊知郎, 東畑精一(共訳)、『新装版 資本主義・社旗主義・民主主義』 、東洋経済新報社、1995. (原著 1942)

 

 

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