1.Well-being 経営の共通認識
1.1. Well-being とは
当社では Well-being を「善き存在」「より善く生きる」「幸福である人生を送ること」と定義しています。詳細は「Well-being とは」のページをご参照下さい(左記サイトでは「働くこと」によって実現される Well-being に焦点をあてて記しています)。
1.2. Well-being 経営 に対する共通認識とその意味
Well-being は多義性の高い言葉で、それぞれの企業で Well-being を定義して取り組んでいるというのが実態です。しかし、「Well-being 経営」という文脈での共通認識は、①社会・顧客・従業員の Well-being を考える、② Well-being が高い人ほど協働意欲や貢献意欲が高く生産性も高い、③企業価値を創造するのも人であり、人への投資(人的資本経営)が重視されている、④投資家も財務指標の先行指標として企業の Well-being への取り組みに注視している、といったところでしょう。
- 社会に視座を高めたパーパス経営が盛んに言われています。これは「社会の中で企業が存在する意義」を強調した経営です。企業で働く一人ひとりの人たちにも「それぞれの生きる目的」を叶えたいという思いがあり、「企業の存在意義」に共感して働くことにより自分も成長し、その願いを叶えることができるのであれば、協働意欲や貢献意欲を高め生産性も向上します。
- 顧客経験価値が重視されるようになってきました。単に、顧客のニーズを満たすだけでなく、顧客が実現したいストーリーを価値として提供することで顧客との関係強化を図っていこうという取り組みです。顧客も社会生活を送る中で自然環境や人権の保護に対する意識が高まっています。そうした視点から顧客に提供できる Well-being のストーリーを描かなければなりませんが、その結果、ブランド価値の向上につながり企業価値を高めることができます。
2.組織変容がもたらす Well-being と ESG 経営
2.1. 必要要件としての Well-being 経営
- 人手不足対策として、人の採用を増やしたい、離職率を下げたいということで「健康経営」に着目して、①安全安心な職場環境(労働環境)の整備、②予防医療やメンタルヘルスケア等の機会の提供、③職場内での様々なハラスメントの防止、④QOLの実現に資する福利厚生制度の充実、⑤過重労働とならないようにする労務管理、⑥ワークライフバランスに供する業務システム、といった施策を講じている企業も増えています。
- 次々と生み出される新しい技術に対応するために、企業としても、新たなスキルを身につけてもらうためのリスキリングやリカレントといった教育への意識も高まっています。個々人にとってもキャリアアップにつながる取り組みであり、そうした教育によって貢献意欲が高まり、離職したいという動機を低減させることもできます。
2.2. 十分条件としての Well-being 経営
- 何よりも大事なことは、組織が社会の変化を先取りして変化していくことです。社会が変わっていくのに、組織が旧態依然としていたら身も蓋もなく、そこで働くことは不幸の極みです。常に、新しいことに挑戦し、ダイナミックに変化していかなければなりません。
- 企業の成長の源泉はイノベーションです。そのためには先を見通すフォーサイトが必要となります。先見性があり、イノベーションで成長していく見込みがあり、自分もイノベーションに関わりトップランナーの一員として働けることは幸福なことです。
- 上記のような組織では、意思疎通し意志疎通し合えるコミュニケーションが必要です。 One on One コミュニケーションであれ、フラットな組織で経営と現場が一体となって行動できるコミュニケーションであれ、双方向のエンゲージメントでつながり、良いアイデアが組織の中で迅速に反映されるコミュニケーションの文化が組織の中に醸成されていなければなりません。
- デジタル・トランスフォーメーション(DX)の元々の役割は顧客経験価値を創造し提供することです。そうした業務をこなす上で効率が悪い業務システムはストレスになります。DXは生産性を向上させるという目的(コスパ、タイパ)ばかりでなく、労働負荷を減らし、労働環境の改善になるものでなければなりません。
2.3. ESG経営から見た Well-being 経営
様々な企業の統合報告書、サステナビリティレポートでは、「2.1.必要要件としての Well-being 経営」に関する報告が目立ちます。しかし、本来、「2.2. 十分条件としての Well-being 経営」も含んだ必要十分条件が満たされたものでなければなりません。
3.データドリブン経営とはどのような経営か
3.1. データドリブン経営 の定義と具備すべき条件
『データドリブン経営』とは「データに基づいて意思決定や行動をする経営」です。しかし、この定義は曖昧です。
組織論のハーバート・サイモンや社会学者のニクラス・ルーマンは「コミュニケーション」を『双方向の意思決定の連なり』であると定義し、限定合理性の下で意思決定や行動をしていく基盤としました (#1) (#2) 。さらに、この考え方を発展させたウィリアム・オカシオは「アテンション・ベースト・ビュー」を提唱し、組織横断による認知と縦方向の企業全体としての認知(縦横両方向の認知)が働くと事業が成長するとしています (#3) 。『データドリブン経営』は『縦横両方向の認知が働く、双方向の意思決定の連なり』でなければなりません 。
「限定合理性」については 当コラム #312 ビジネス・フォーサイトを導き出すコミュニケーション 『2.2.1. 限定合理性』参照
3.2. データドリブン経営システムの構築
『縦横両方向の認知が働く、双方向の意思決定の連なり』を実現するために、例えば、AIやIoT 等の情報技術をどのように導入するのが適切かを設計して『データドリブン経営システム』を構築することになります。
4.真に求められるデータドリブン経営
『データドリブン経営』は「2.1.必要要件としての Well-being 経営に関する情報」を収集し報告するだけの仕組みではありません。「2.2. 十分条件としての Well-being 経営に供する情報」を認知して意思決定や行動する仕組みでなければなりません。
先見性を持って企業が進むべき方向性を示し、イノベーションを起こし、ダイナミックに変わっていく組織に変革し、その方向性の下で獲得すべき知識を学ぶリスキリングやリカレント教育を提供する人的資本経営を統合した経営が『真に求められるデータドリブン経営』と言えるでしょう。
本メルマガは弊社ホームページのコラム “未来への歴史” をもとに作成しています。“未来への歴史” とは、サステナビリティの未来社会を思い描いて日々書き綴った記事を思考の系譜を歴史として振り返ることができるようにと意図したものです。
- 『ビジネス・フォーサイトとコミュニケーション』の詳細はこちらのサイトをご参照下さい。
- 『社会に視座を高めた経営と社会的価値創造』の詳細はこちらのサイトをご参照下さい。
- 『サステナビリティ経営の戦略思考モデル』の詳細はこちらのサイトをご参照下さい。
- 『トランスフォーメーション戦略構想モデル』の詳細はこちらのサイトをお読みください
- 『 ビジネス・フォーサイト』の詳細はこちらのサイトをお読みください。
- 『 Well-being 』の当社の定義はこちらのサイトをご参照下さい。
- 前回メルマガ『脱 “リスクと機会” 社会的価値を創造するイノベーション』はこちらのサイトをお読みください。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
【参考文献】
- ハーバート・A・サイモン、松田武彦.高柳暁,二村敏子訳、『経営行動 経営組織における意思決定プロセスの研究』、ダイヤモンド社、1965 (原著初版:1945,第三版:1976)、pp.199-200、pp.102-107 を参考に記載
- 佐藤俊樹、『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』, 岩波新書1994, 岩波書店, 2023.11.17、p. 219 を参考に記載
- 日本経済新聞 「認知能力」が企業成長の源 若林直樹氏 京都大学教授 2024.12.10 を参考に記載