【サステナビリティ時代の戦略眼と現実解 メルマガ Vol.2 2024年11月11日号】 「生成AI による “Thoughtfullness without Thinking” はどのようにして可能か」を配信しました

【サステナビリティ時代の戦略眼と現実解 メルマガ Vol.1 2024年11月5日号】 「今の不安を解消するフォーサイトコミュニケーション」では、フォーサイトに必要な「社会を俯瞰して考える習慣」について示しました。

そこで今回は、フォーサイトの具体例として、現在まさに進行している「生成AI をコア技術としたビジネス・エコシステム」について俯瞰して掘り下げることにします。尚、「生成AI」の定義については専門書などに譲ることにして、ここではビジネス・エコシステム(*1)の視点から考えます。

1. “Thoughtfullness without Thinking” (考えずに実現する思慮深さ)とは

「生成AI」のビジネス・エコシステムが実現を目指している「エンドユーザーに与える効用」は、本メルマガのテーマ “Thoughtfullness without Thinking” (考えずに実現する思慮深さ)です。これは、筆者の造語で、一見、矛盾している不思議な言葉ですが、「人間は煩わしいことを考えることなく、生成AIの力を借りて思慮深い思考を実現する」といった意味を込めています。これは人工知能が目指すことの一つでもあるでしょう。

2.データドリブン経営を “Thoughtfullness without Thinking” に位置づける

筆者は、1997年頃から企業の予算管理システムのコンサルフレームワーク開発と実践に携わってきました。当時から30年近く一貫して主張してきたことは「データドリブン経営」ですが、日本においては、高度経済成長期の成功体験があって、また、正常性バイアス(茹でガエル現象)、アインシュテルング効果(過去の経験に縛られて新しい発想を生み出せない)、現在バイアス、現状維持バイアス、確証バイアスなどが邪魔をして、「データドリブン経営」は現実的にあまり重視されてきませんでした。

こうした背景の下、筆者は、経営行動から捉えた場合の “Thoughtfullness without Thinking” (考えずに実現する思慮深さ)を「データドリブン経営」だと考えています。

3.「生成AI」が代行するデータドリブン経営

「生成AI」が実現する機能を、学習した知識を活用した「データ分析による事象の認識」と「編集(報告書作成)とレコメンデーション(勧告)」であるとした場合、企業経営においては、早晩、おそらく、1~2年後位までには、以下のことは実現されるでしょう。

  • 事業計画の評価、業績予測、実施結果の分析と説明
  • PDCA管理(状況の評価とアドバイス)
  • セールスパイプライン管理(ファネルの管理、ステージの遅延に対するアドバイス)
  • 決算結果の評価、報告書の作成
  • 経営分析(競合企業の公開情報に基づくベンチマーキング) 等

4.イノベーションへの集中が求められるこれからの経営

これらの自働化が実現されると、企業経営の仕事はどうなるのでしょうか。

言うまでもなく、「生成AI」は学習した知識に基づいて機能するものですから、フレーム問題(人間が学ばせたこと以外のことはできないという問題)の制約があります。もちろん、社会や人間も、知識もなく経験していないことを考えることはできません。しかし、人間は、様々なイノベーションを起こして社会を変革してきました。これは個々人の「創造性」によってなしうることです。

「生成AI」が “Thoughtfullness without Thinking” (考えずに実現する思慮深さ)を実現し上記業務を代替するようになると、経営者は「創造性」に関わる思考に比重を高めることが可能になります。このことは、企業が成長し続ける源泉はイノベーションですが、経営の本分であるイノベーションに経営者が集中できるようになるということを意味します。

また、将来的に「生成AIをコア技術としたビジネス・エコシステム」の価値要素は、効率化やコスト削減のための業務改革を担うIT事業者から、生成AIを企業経営に組み込むIT事業者に置き換わっていくのかも知れません。

 

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

【ビジネス・エコシステムに関する諸定義】

(*1) ロン・アドナーによるビジネス・エコシステムに関する定義 [参考文献 1]

  1. エコシステム:エコシステムとは、パートナー同士が協力し合い、エンドユーザーに価値提案を行う構造のこと (アドナー 2021 #1 ,p.54)
  2. 価値提案:企業努力によりエンドユーザーが受ける紅葉のこと (アドナー 2021 #1 ,p.52)
  3. 価値構造:価値提案を構築するための要素をまとめたもの (アドナー 2021 #1 ,p.58) 価値構造とは、企業がエンドユーザーに与える効用の根底にある概念 (アドナー 2021 #1 ,p.58本文より)
  4. 価値要素(バリューエレメント):カテゴリーレベルの抽象的なアイデアだが、価値提案をまとめる際の根幹となる (アドナー 2021 #1 ,p.58本文より) 

【参考文献】

  1. ロン・アドナー著、中川 功一監訳、蓑輪 美帆訳、『エコシステム・ディスラプション - 業界なき時代の競争戦略』、東洋経済新報社、2022.8.11(原著 2021)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)