前回の当メルマガ 「顧客インサイトを深掘りし価値提案をお薦めするAIシステム」 では、下記機能の実現を示しました。今回のメルマガでも、一貫してこの方式を採用しています。
- 顧客及び消費者インサイトの分析と評価
- 価値提案(バリュー・プロポジション)の作成
- 掘り下げていく論点、準拠する理論の抽出
1.新たな機能 「ダイナミック・アブダクション」
前回のメルマガでは、多様な視点で学習データを成長させていくことを示しました。これを受けて、今回、力を注いで開発したのは「ダイナミック・アブダクション」という新機能の実現です。
※「ダイナミック・アブダクション」についてはこちらのページをご参照ください

カスタマ・インサイト(顧客インサイト)、コンシューマ・インサイト(消費者インサイト)を以下のように定義して区別しています。
- カスタマ・インサイト(顧客インサイト):顧客自身の心の内に隠されている叶えたいこと
- コンシューマ・インサイト(消費者インサイト):顧客インサイトを叶えるべくバリュー・プロポジションをする「企業の視点から捉えた顧客インサイト」へのインサイト
2.何故、「ダイナミック・アブダクション」だったのか
人間の思考は、どうしても、現実的に目の前に直面しているケース、経験したことや知識として学んだことに引きずられてしまいます。インサイトやバリュー・プロポジション(価値提案)の創造も例外ではありません。結果として、どんなに客観的な思考をしていると言っても、自分の知りうる世界の中での限定合理性を超えた世界で物事を捉えることはできません。価値提案も、予定調和の発想でしかありません。
インサイトは、論理的思考ではなく、むしろ、直観的な感覚にもとづく心の奥底に潜んでいる意識されない思考です。「こうありたいという叶えたいこと」からの思考ですから、アブダクション(逆行思考)に近いものです。また、「こうありたいという叶えたいこと」と言っても、社会の趨勢、経済社会の動向、周囲の環境変化によっても動かされます。
3.難産だった「ダイナミック・アブダクション」
生成AIは、元々、出力結果から仮説を立てて、データネットワークにある言葉を探索し、言葉と言葉のつながりの確率の高さから推論して文章を生成していくという仕組みです。ハルシネーションという現象を引き起こしてまでも、データネットワークを探し回って答えを見つけ出そうとします。そのため、探索の合理性を目的として、事前にデータネットワークを構築しています。当社が独自に開発した「MECEである知識ネットワークをメタフレームワーク」もデータネットワークに組み込まれてしまいます。
一方、当社の「現実のケースに対して、その深層にあるインサイトを分析してバリュー・プロポジションを創り出す」という基本コンセプトは「ダイナミック・アブダクション」であり、データネットワークの探索を前提としてはいません。また、事前に命題と命題の因果関係を定義したもの(演繹推論)でもなく、既存の事例を積み重ねて帰納的推論するものでもありません。どの業種・業界にも適用できるメタ化した形式知で「独自に開発した学習データ」ですので、そもそも、現実のケースとは抽象化レベルが一致せずマッチングできません。
4.技術的ブレークスルー
生成AI(ChatGPT 4o)を使用するにあたり、下記の技術的ブレークスルーにより「ダイナミック・アブダクション」を実現することができました。
- 生成AI(ChatGPT 4o)に対して、事前にデータネットワークを作らせないように学習させたこと(そもそも、生成AIの否定となります)
- ダイナミックに関係性ネットワークを構築するアルゴリズムを開発したこと
- ケース定義文をより厳格に記述できるフォームを開発したこと(これは、経営コンサルティングのヒアリングシートにもなります)
- 知識ネットワークも抽象化レベルが違うもの同士でもマッチングできるように最適化したこと
5.結果の評価
結果を評価できるように、前回の「水産加工販売会社」のケースについて、今回と前回を回答結果を下記ページに示します。(前回は、「家庭用家具製造販売事業社」という全く異なる業界のケースも読み込ませて回答させています)
今回の回答結果は、ページとしては文字が小さく情報量も多いので読みにくいかも知れませんが、かなり詳細化し精緻なものになっていることを感じ取って頂ければと存知ます。
6.社会的思考の拡張としてのAI
当社では、AIを単なる道具としてではなく、思考を拡張するパートナーとして捉えています。ダイナミック・アブダクションは、AIが人間の思考の限界を補完し、より広く、深く、複雑な問いに対して、ともに構想を描き出すための知的アーキテクチャです。
この技術は、バリュー・プロポジションの創出のみならず、企業戦略、政策設計、社会課題解決など、あらゆる構想活動に応用できる知の共創基盤として、今後さらに展開して参ります。
本メルマガは弊社ホームページのコラム “未来への歴史” と連携して作成しています。 “未来への歴史” という名称は、サステナビリティの未来社会を思い描いて日々書き綴った記事を「思考の歴史として振り返ることができるようにしよう」と意図して命名したものです。
【本メルマガに関連するコラム】
- #310 戦略眼と現実解 サステナビリティ経営を実現する「戦略思考モデル」
- #318 戦略眼と現実解 市場を創造するバリュー・プロポジションの新たな視点
- #319 戦略眼と現実解 ダイナミック・アブダクション というコンセプト
【過去のメルマガとコラム】
- 前回のメルマガは 「顧客インサイトを深掘りし価値提案をお薦めするAIシステム」を開発しました のページをご覧ください
- これまでのメルマガは 戦略眼と現実解 のページをご覧ください。
- これまでのコラムは 未来への歴史 のページをご覧ください。
【関連する当社サービス】