日本国内における社会の成熟化が進行し、収縮する市場に対する企業間の競争が一段と激しくなってきている。また、グローバル化が進展し、サブプライムローン問題をきっかけとした世界同時不況や地球温暖化の問題により、企業には経済合理性の追求ばかりでなく、社会的課題に対する役割を担うことが求められるようになってきている。
日本企業の多くは、従来の成長経済下での成功モデルをより深化させようと努力し、あるいは、米国の経営モデルを取り入れてきたが、複雑に絡み合った社会や市場からの要求を咀嚼できずに業績が伸び悩み、海外の企業との競争力を失いつつある。
今、日本の企業がなすべきことは、世界中を席巻している米国流の投資家や株主の利益を重視して短期的な成果を追い求める経営規範を乗り越えていくことである。世界中に起きている格差と貧困、地球環境の破壊、エネルギー資源や食料資源の枯渇などの様々な社会問題に向き合いながら、将来に向けた視点で地域社会と共生し、様々な課題を解決していくことのできる事業をグローバルに展開して行く経営規範を確立することが、これからのグローバル企業に求められる新たな価値である。
日本は世界で最も高齢化が進んでいる国である。しかし、長期的に見れば、やがては世界中で高齢化が進み、グローバルに社会が成熟化して生産性が低下していく。日本の企業は、確実に起こる将来の様々な事態を見据え、長期的視点で社会的課題の解決に取り組んでいくことで、グローバルに先行したノウハウを蓄積することができる。
そのためには、日本の風土で培ってきた長期的な視点で人を育て、組織能力を活かして独自性を追い求めてきた経営規範がものをいう。停滞する経済情勢にあって、一企業一個人として生きていくために短期的な成果を追い求めるのは当然の姿である。現実との葛藤、すなわち、経済合理性と社会的課題解決の追求を整合させつつ、多様な知見を持つ人々を組織内に育て、横断的に活動する組織文化に変革して、グローバルに地域社会と密着して活動している人々とのネットワークを構築していくことが必要である。
本稿では、食の問題への取り組みを例に、これからの日本の企業が経営再生に向けて取り組むべき「経営再生プロジェクト」について提言する。