#320 戦略眼と現実解 経営の根源に宿る「問い」――インサイトドリブンという思想

1.「問い」から始まる経営の再構築

従来の経営は「固定化された計画」や「過去データの解析」を重視してきました。しかし、現代は、未曾有の社会的変容に相対して、「未来を構想する」経営が求められています。

この考え方の本質は、「KPIの前にKQがある」という言葉に集約されます。すなわち「Key Performance Indicator」よりも「Key Question」が先にあるのです。

2.インサイトとは何か――在りたい姿を聞き取る

インサイトとは、数値には表れない「こうありたい」という願いの本質です。

その願いを、我々は「心の内に隠されている叶えたいこと」と呼んでいます。

計画もコンセプトも、すべてこの願いを重んじて成り立つべきです。

3.企業インサイトは何を指すか

インサイトドリブン経営は、こうした顧客の願望に対して「企業がどのような価値を実現できるか」をアブダクティブに決めていきます。

ここで重要な役割を果たすのが「消費者インサイト」です。これは、顧客の叶えたい願い(顧客インサイト)を実現するために企業が提示する、未来に向けた価値提案のモデルであり、現実社会との接続点でもあります。

  • 「顧客インサイト」の定義は『顧客自身の心の内に隠されている叶えたいこと』であり、顧客自身が抱いている「在りたい姿」「在り様」「在って欲しい姿」として描かれます。「顧客インサイト」のドメインは「C1:消費生活」「C2:素材」「C3:生産」「C4:物流」「C5:流通」「C6:文化」「C7:社会的公正と倫理観」です。例えば、C1は、顧客が消費生活としての在りたい姿として描かれます。
  • 「消費者インサイト」の定義は『顧客インサイトを叶えるべくバリュー・プロポジションをする「企業の視点から捉えた顧客インサイト」へのインサイト』であり、現在の在り様からアブダクティブに描いた未来に向けての在るべき姿(モデル)として描かれます。「消費者インサイト」のドメインは「S01:消費モデル」「S02:循環経済モデル」「S03:機能と品質」「S04:歩留まり(資源の有効活用)」「S05:効率(業務効率と暮らしの効率)」「S06:ブランド」「S07:生産性(創造される価値)」「S08:リダクション(廃棄排出)」「S09:リユース」「S10:リサイクル」「S11:人権を尊重する心遣い」「S12:コンプライアンスを尊重する心遣い」「S13:セキュアなビジネス環境」です。例えば、S01は、企業が価値提案する多様化する消費の在るべき姿、あるいは、個性的な生き方を重視する消費の在るべき姿として描かれます。

4.ダイナミック・アブダクションという論理

弊社では、現在、インサイトをこれまでにない解像度で分析(顧客インサイト×消費者インサイトの複合分析)しようとしています。

その一つの手段が「ダイナミック・アブダクション」です。

  • アブダクションは「驚きや異常な観察結果に対して、それを説明するための仮説を創造的に構築する」プロセスです。

これは、変化する前提を柔軟に取り入れながら、信頼できる仮説を創発し、新たなバリューを生成する思考技術です。

AIの時代においても、最も人間的な思考の一つであり、パーパスに近づくためのイノベーションを導く「問いのメタ構造」とも言えるでしょう。

5.将来経営を支える「再現可能な問い」

パーパスやミッションを経営実務に落とし込むには、再現可能なプロセスが必要です。

その中心にあるのが「問い」。これは感性ではなく、構造化された信頼性の高い思考の道筋です。

これまでのインサイト分析(C1〜C7、S01〜S13) (AI’による インサイト駆動型価値提案リコメンド システム) も、すべてこの「問い」によって経営を再定義するための視座でした。

参考)顧客インサイトと消費者インサイ

本ページ末尾に掲載しています「表1 顧客インサイト×消費者インサイトの複合分析」は、心の奥底にある「こう在りたい」という願い(顧客インサイト)と、それに応えるべく企業が未来視点で提示する価値モデル(消費者インサイト)を対比的に整理したものです。

6.総括――インサイトドリブンはAI時代の人間中心経営

インサイトとは人を理解するための経営思考であり、そこにはAIでは代替できない「叶えたい願いを聞き取る力」が求められます。

これからは、シリーズの形でC1〜C7、S01〜S13のインサイトを優しく解説しながら、「問い」から始まる経営の本質を語り続けていきます。

※当コラムの記述内容は独自に整理・構成されたオリジナルな知見に基づいています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

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