#313 戦略眼と現実解 変化の兆しを先読みして行動を起こすハイパフォーマンスコミュニケーション

1.組織とコミュニケーション

1.1. 「組織」とは

 「組織」とりわけ「合理的組織」とは何でしょうか? 社会学者の佐藤俊樹氏は、ウェーバー⇒サイモン⇒ルーマンの流れを追いながら、以下のように定義しています。本コラムでは、佐藤俊樹氏の「合理的組織」を、一般に言う「組織」と区別して「ハイパフォーマンス組織」と呼ぶことにします。

  • 「組織」は複数の決定を連ねて外部の変化に対応していくしくみであり、どのように決定を分担していけるかによって、組織全体の成果が大きく変わってくる。そこで、「合理的組織」を再定義すれば『水平的な協働を実現できる形で、組織の業務それ自体を遂行していく組織』だといえる。 (佐藤 2023 #1 p.216)

 「ハイパフォーマンス組織」は「アジリティのある組織」だとも言えます。「アジリティ」は「俊敏」であるばかりでなく「賢明な意思決定ができる」という意味合いを含んでいます。すなわち、「ハイパフォーマンス組織」は『賢明な意思決定を俊敏に行える組織』だと言えます。

1.2. 「コミュニケーション」とは

 また、「コミュニケーション」についても、佐藤俊樹氏はハーバート・サイモン、ニクラス・ルーマンの定義を引用して以下のように記しています。

  • 「コミュニケーション」は組織のあるメンバーから別のメンバーに決定の諸前提を伝達するあらゆる過程であり、二方向の過程である(サイモン 1976 #2 pp.199-200 、一部筆者加筆)
  • ルーマンはコミュニケーションを「情報、伝達、理解の三つの構成要素からなる」とした上で、伝達/情報/理解が並列する、すなわち、「相互に前提としており循環的に結びついている」とする。(佐藤 2008 #2 pp.226)

 こうした先行研究をもとに、弊社では、「組織におけるコミュニケーション」を「意思決定の循環的な連なり」と定義しています。

1.3. 組織におけるコミュニケーションシステム

 当コラム 「#312 戦略眼と現実解 ビジネス・フォーサイトを導き出すコミュニケーション」 において「組織システムにおけるコミュニケーションシステム」のイメージを下図のように示しました。本図に掲載されている用語については上記 #312 のコラムをご参照下さい。

           「2.4. 組織システムとしてのコミュニケーションシステム」に掲載した図の再掲

1.4. 「モデリング」とは

 上図では「思考の仕方」の一つとして記載していますが、例えば、『最適化』するにも「何がどうなれば最適であり、最適にするにはどうしたら良いか」を考えなければなりません。そもそも、『最適化』を考えることが適切であるかを判断することも必要です。

 プランを考えるにも、戦略を考えるにも、ビジネス・エコシステムを考えるにも、マネジメントの仕方を考えるにも、障害対策や再発防止策を考えるにも、人の配置や組織構造を考えるにも、ビジネスモデルを考えるにも、業務プロセス(業務フロー)を考えるにも、作業手順を考えるにも、設計をするにも、人事システムを考えるにも、指標体系を考えるにも、、、、ありとあらゆるものに対して行動するためには、むやみやたらに行動してもだめで、それに先立ってモデリングすることが必要です。モデリングをせずにものごとを行うことはできません。

 多岐茫洋として判然としないことに対処するには、①視点を決めて論点を整理し、②軸を決めて体系化し、③概念構造を定義して階層化し、④正規化して細部の役割(機能)を具現化し、⑤基準や手順を決めて行動の仕方を定め、⑥作成したモデルの有効性の検証と改善をする必要があります。このように思考を行動可能な形に表していくことがモデリングです。モデリングはメタ思考でもあり、モデリングをするにもモデリングが必要となります。

2.ハイパフォーマンスコミュニケーション

2.1. 組織のパフォーマンスを阻害するコミュニケーション

 本コラムにおける「ハイパフォーマンス組織」は 第1.1節で示したように『賢明な意思決定を俊敏に行える組織』であり、「コミュニケーション」は 第1.2節で定義した『意思決定の循環的な連なり』です。しかし、「ハイパフォーマンス組織におけるコミュニケーション」は以下の行為により阻害されます。

  1. コンプライアンス違反(マナー違反)
    (1) 無意識のバイアスにより相手を傷つける
    (2) ハラスメント(特に、威圧的な内容)
    (3) 揶揄する
    (4) 遠まわしに皮肉って批判する
    (5) 誹謗中傷
    (6) 偽情報(陰謀論)
  2. 齟齬が発生する要因(限定合理性の下で交わされるコミュニケーションの問題)
    (1) 立場の違いにより受け取り方に違いが生じる
    (2) 言外に前提がある(無意識の場合もあり、意識的に隠す場合もある)
    (3) 都合の悪い話題に対して論点をずらす(はぐらかす)
    (4) 同じ言葉であっても解釈に違いがある
    (5) 曖昧な知識のまま交わされる場合がある(知らないことを隠して体よく繕う)
    (6) 背景知識の違いで理解に違いが生じる(そもそも人には確証バイアスがある)
    (7) 知らない知識が含まれる
    (8) 忖度がある
  3. 無視したり、取り合わなかったりする場合がある
  4. 不承々々ながらもその場で即答を迫られて、事後に撤回できない場合がある
  5. 日々の会話の中で使われる言葉には多義性があり、コンテクストやシーンで意味が異なる場合もある

2.2. 組織のパフォーマンスを高めるハイパフォーマンスコミュニケーション

 では、こうした阻害要因を排除するにはどうしたらよいのでしょうか? 行動規範を定めて強制的にやめさせることで可能なのでしょうか? しかし、そもそも、これら阻害要因は人の内面に隠されている、誰もが持っている深層心理に関わることなので、規範で規定しても防止できないのではないでしょうか?

 答えは、上図「組織におけるコミュニケーションシステム」を「ハイパフォーマンス」なものに変革することです。すなわち、「ハイパフォーマンス組織」ではなく「ハイパフォーマンスコミュニケーション」に変革することです。「ハイパフォーマンスコミュニケーション」が組織のパフォーマンスを高めることにつながります。そして、論点は『賢明な意思決定を俊敏に行えるコミュニケーション』を如何に実現するかに移ってきます。

2.3. ハイパフォーマンスコミュニケーションを如何に実現するか

 ハイパフォーマンスコミュニケーションを実現するということは、上図「組織におけるコミュニケーションシステム」で朱記書きしている、①アテンション・ベースト・ビュー(ABV)、②Trigonal Thinking TM、③モデリング、④データドリブン、の4つの視点から『賢明な意思決定を俊敏に行える仕組み』として再構築するということになります。

  1. ①アテンション・ベースト・ビュー(ABV)の視点から導く「アテンションビュー」については #310 戦略眼と現実解 サステナビリティ経営を実現する「戦略思考モデル」 「3.戦略思考モデル」の記載が参考になりますので、ご参照下さい。
  2. ②Trigonal Thinking TM の視点から導く「リフレクション」については #312 戦略眼と現実解 ビジネス・フォーサイトを導き出すコミュニケーション 「2.3. 組織におけるコミュニケーションを成立させるために」の記載をご参照下さい。
  3. ③モデリングの視点から導く「様々な観点からの施策の洗い出し(コミュニケーションによる合意形成)」は、上記 「1.4. 「モデリング」とは」に記載内容に基づいて進めることになりますが、詳細は別途掲載する #314 戦略眼と現実解 データドリブン経営によるハイパフォーマンス組織の実現とAI技術活用の展望 で深掘りすることにします。
  4. ④データドリブンの視点から導く「相互に前提として循環的に結びついた決定の連なり」へのフィードバックについても別途掲載する #314 戦略眼と現実解 データドリブン経営によるハイパフォーマンス組織の実現とAI技術活用の展望 で深掘りすることにします。

2.4. 企業文化や組織風土の変革ではなくナッジ (*) によって実現するハイパフォーマンスコミュニケーション 

 最近は成果主義が普及してきていますので、多くの人は「自ら目標として設定た数字」の達成を目指して、日々の業務に携わっていると思います。ここで大事なことは「数字責任を負わされて」ではないことです。数字を自ら目標として設定するには「モデリング」が関わってきます。そして、その数字が「データドリブン」の視点で可視化され、自分自身で努力するなり、問題提起して周りの人たちの協力を仰ぐなりをして解決することになります。

(*) 「ナッジ」は『無意識のうちに起きる行動変容を促すこと』です。

3.自律的に行動することがハイパフォーマンスコミュニケーションの要件

 先に引用した佐藤俊樹氏は「合理的組織」について、次のようにも記しています。

組織が取り組むような課題には多くの関与者がおり、その自発的な協力をえる必要がある。命令によって強制的にやらせようとすれば、かえって余計な時間と手間がかかる。上位者の命令は自発的な協力を引き出す手段であって、自発的な協力の代替にはならないのだ。(佐藤 2023 #1 p.210)

 これを「ハイパフォーマンスコミュニケーション」に置き換えると「自ら変化の兆しを先読みして自律能動的に協働するために交わされるコミュニケーション」でなければならないということを意味します。

 なお、「自立」と「自律」という言葉には多義性があり、一概に定義することはできないことに勘案し、弊社ではもう少し一般化して、①経済的に自立し、②様々な権利(人権)がその人に確保されて、③個人の自由意志が形成され認識されて初めて「自立」と言えると定義し、こうした自立した個人が、④内発的に意見を表明し、⑤他者に対して提案し、⑥お互いの意見の相違を受け容れて、⑦自ら調整して実現していけるようになるのが「自律」しています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

【参考文献】

  1. 佐藤俊樹、『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』, 岩波新書1994, 岩波書店, 2023.11.17
  2. ハーバート・A・サイモン、松田武彦.高柳暁,二村敏子訳、『経営行動 経営組織における意思決定プロセスの研究』、ダイヤモンド社、1965 (原著初版:1945,第三版:1976)

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