#93 過去に向かって変化する トランプ米大統領就任演説より

今日、トランプ米大統領が就任しました。 就任演説の言葉を借りれば、「今日から米国第一主義を実施する」「米国製品を買い、米国人を雇う」というルールで、これからの全ての政策決定がなされていくことになります。
 「米国の労働者たちのことが顧みられることはなかった」「中流層の富が奪い取られ、世界中に再分配された」という発想の下、「このすばらしい国家全域に、新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道をつくり、福祉に頼る生活から人々を抜け出させ、仕事に戻らせる」「我々自身の手と労働力でこの国を再建する」という政策が展開されて、米国全土にハコモノ投資をして雇用を創出していくと考えられます。老朽化し荒廃したインフラを改修・作り直す必要はありますが、よく知られているように、ハコモノ投資が真に未来への投資と言えるのか、また、創出した雇用も一時的な需要でしかなく、雇用のミスマッチも生じてうまく政策として機能するのかといった疑問が残ります。 そして何よりも、新たにつくるハコモノには維持費がかかり、50年後には負の遺産となります。 50年後の世界は、中国やインドなどの人口の多い国々が人口オーナス社会となっており、どの国も今より経済的に疲弊し、膨大な負の遺産が未来の人達の重荷になると予想されます。

 また、「エスタブリッシュメント(支配階級)は、自らを保護したが、米国民を守らなかった」「首都ワシントンからあなた方、米国民に権力を戻す」「意見をいうだけで、行動を起こさない政治家にはもう容赦しない」としてワシントンの政治家を批判し、エリートと言われる人達との対決姿勢を露わにするなど、社会が分断されていくことも予想されます。 (以上、カッコ内の就任演説の日本語訳は、日本日経新聞 2017年1月21日夕刊より引用しました)

 これまでの発言では、宗教で人を差別する社会への風潮を煽り、メキシコとの国境に壁を築いて不法入国をなくし、不法移民を国外退去させ、米国内から海外への工場移転を止めさせ(国境税をかけるとして個々の企業の経営に対する指先介入)、更には、オバマケア(医療保険制度改革)を見直し、地球温暖化対策として講じられた石炭による火力発電の規制を撤廃させるといったことも実現化されていくと思われます。

 就任式後すぐに、ホワイトハウスのホームページで、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉も明らかにされました。 NAFTAは、雇用が創出されるとして、何年にもわたる議論の末に、1994年にようやく発効したものですが、米国の雇用を奪ったというのが新大統領の主張です。 確かに、自由主義経済によりグローバル化が進み、世界規模での経済格差拡大を生み出しました。 そうした経済格差社会への反発を背景として、保護主義を唱えるトランプ大統領が選出されたとも言えます。
 しかし、保護主義は、他国との軋轢を生み出し、紛争の種を作り、新たな憎しみを生み出す危険性があります。 グローバル化により地球は狭くなり、90年代よりも人口が増加している現在においては、当時よりも、限りある地球資源への利権に対するゼロサム競争も激しくなっています。 保護主義だろうが自由主義だろうが、そこには必ず新たな利権を生み出します。 今回の保護主義化への動きが、後戻りできない変化でなければと、こころから心配でなりません。

 東京都文京区にある願行寺の門の横に「百の理想より、一の実行」という言葉が掲示されていました。どれも納得のいく言葉です。 別の言葉に「百の言葉より、一の行動」があります。 この言葉は、安倍首相が唱えており、先日の施政方針演説で語られていました。 今回のトランプ大統領の施政方針演説も同様です。
 しかし、逆に、「百の行動より、一の言葉」を考えてみるとどうでしょうか。 それは、目の前の問題にばかり気をとられて行動すると、取り返しのつかない事態を引き起こしかねないという教訓になります。 NAFTAが発効した1994年から20余年、何故、過去に向かって変化しなければならないのか、当時と比較し、未来に向けて本当に合理的な理由があるのか考えさせられます。
 目先のことに対処する百の行動ではなく、本来、遠い将来を見据えた一つの理想を軸として百の行動を行っていくことが大事なのではないかと、今回の演説を通して改めて認識させられました。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一 

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