新たな一年が始まりました。 本コラムでは、年頭に当たって、今年の世界の潮流について考えていくことにします。
2017年 世界の新潮流
1990年代位から世界中を覆ってきたグローバリズムの流れが、一昨年、昨年と、衰退の兆しが見えてきて、今年は、いよいよ大きく変動しそうな予感もあります。 米国のトランプ新大統領の就任、オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ連邦議会選挙の行方によっては世界の様子が激変するかも知れません。
欧米的発想のグローバリズムから芽生えつつある新たな変化
英国のEU離脱、米国のトランプ新大統領の選択といった出来事の根底には、過度の経済格差と若年層の高い失業率、泥沼化したシリア内戦と中東からの政治難民の急増、受け入れる側の経済的困窮と社会不安といった問題があり、それらを生み出したグローバリズム、金融経済主導の経済の仕組み、新自由主義の枠組みに世界中が疲弊し嫌気が差してきたのだと考えられます。
考えてみれば、こうした動きは当然のことだとも言えます。国ごとの市場は小さく、利益と成長を求めて、グローバルに事業を展開しようとしたのがグローバリズムです。 自由経済の競争原理の下で、当然のこととして、そこには、世界規模でごく少数の勝者と、世界全体に大多数の敗者が広がっていきます。 そしてその反動として、自国内の産業を守り、暮らしを守ろうとした動きが台頭してきた訳ですが、成長の停滞した国内経済、縮小均衡した内需だけで、国内の産業を立て直していくことには限界があります。 私は、その時に何が起きるかの方が不安です。
そして、そこに原油価格上昇によって経済的に一服感のあるエネルギー輸出大国であるロシアと米国、欧州の関係のリバランスも関わって、現時点では、不透明感が高まってきています。
世界の総人口の約20%を抱える14億人を抱える経済規模第2位の国、中国の変化の行方
低賃金を強みとして工業化し急速に経済大国化した中国にも新たな変化が進行してきています。 経済発展とともに賃金が上昇し、深刻な大気汚染を招いてきたこれまでの経済成長モデルからの脱却が必要となってきましたが、大規模な不動産投資への偏り、ゾンビ企業と言われる業種を基盤としてきた経済の歪みの改善はあまり見えてきません。 金融経済に頼った経済政策もそのまま、経済格差の顕著な農村から都市への住民の移住による経済発展政策が本当にうまく機能するかは、壮大な社会実験であり、世界規模での経済の行方にも関わってきます。
しかし、何よりも、人口問題こそが、中国の抱えている大きな問題と言えます。 高齢化がどんどん深刻化していく中で、経済成長を支えてきた公共投資の結果として市中に溢れたお金は海外への投資にまわされ、経済的に成功した企業も人材も海外に流出しています。 不動産等の若者向けの大規模施設も財を生み出さなくなり、早晩、負の遺産となっていきます。 こうした状況で、けた違いの人口を抱える国の社会保障の負担をどう解決していくか、出口の見えない政策のその先には、世界規模での社会不安しかありません。
中国の中西部には乾いた広大な土地が広がり、かつ、農山村地域からの住民の都市移住と工業人口化、サービス人口化が進んだその先には、農村の過疎化、不毛の土地の拡大と農地の荒廃が深刻化するのは目に見えています。 そして、更に、巨大な人口を抱える国におけるこうした状況は、世界規模での食料不足、食料の高騰、肥沃な穀倉地帯の農地買収競争と買占め問題、水産資源の乱獲問題を招くリスクがあります。
経済規模第2位である中国とは、隣国である故に、多様な感情的問題を抱えていますが、当面する問題にばかり目を向けるのではなく、その先に直面している問題の本質を捉えて、将来に向けて、世界規模でどう取り組んでいかなければならないかを考えていくことが必要です。
2017年の日本の行方
2017年の日本は、グローバリズムの衰退に伴う世界規模の変動、アメリカ・欧州・ロシアの間で繰り広げられるリバランス、中国の政策によって巻き起こされる様々な変動に揺り動かされ続けることは間違えありません。 国内的には東京オリンピック・パラリンピックに向けた動きや都議選への動きに伴う政局がマスコミをにぎわせることでしょうが、大局的には、デフレマインドを払拭する景気刺激策と財政規律を巡っての議論、地域創成とTPPを軸として展開してきた政策に対する議論、「一億総活躍社会」に向けた人口減少社会化する中での経済成長戦略の議論が展開されると想定できます。具体的には、働き方改革や保育園等の子育て環境の充実、年金制度や社会保障費を賄う税政についての議論が中心になるでしょう。
今の日本が抱える問題の深層には人口減少社会化が挙げられますが、それが問題の本質という訳ではありません。 高齢化や成熟社会化は、経済が成長した先に必ず起きる帰結でもあり、それ自体が問題であるとは言えません。 むしろ、人口減少社会だからこそ追求すべき心豊かさは、私たちの暮らしを和らげて素晴らしいものにしてくれるでしょう。
しかし、少子化問題を克服できなのは、社会が抱える問題の縮図とも言えます。 子供を産み育てるだけの経済的余裕がなく将来への不安もある、経済的に働きながら子育てしなければならないが保育施設がない、独居世帯の増加や核家族化が進むことで子育てする地域社会の環境がないといったことが挙げられます。
社会はイノベーションを繰り返しながら発展していきます。そして、社会の発展により経済環境も充実し、暮らしは裕福なものになっていきます。 イノベーションは、単なる技術革新ではありません。 技術革新がコスト的にも身近なものになって社会に普及して浸透し、社会そのものを豊かに変革していく程のものがイノベーションと言えます。 すなわち、技術革新に限らず、社会の変革を起こした仕組みがイノベーションでもあります。
技術革新による労働環境の変化
ディープラーニングが巻き起こした人工知能による技術革新が注目を浴びています。この分野で顕著なのが、ヒューマノイド型のロボットへの適用であり、受付業務の肩代わり、高齢者介護施設での利用などが知られています。 また、自動運転車への適用も脚光を浴びていますが、完全自動のレベルになるには、まだ時間がかかります。 人間から多くの仕事を奪うと言われていますが、不足している運送業のドライバーの肩代わりできるほどではありません。
これまでのところ、フィンテックと呼ばれる金融業界における顧客サービスへの適用、IoTとの連携による製造業の設備保全、画像処理、言語理解、医療における診断、小売り業における在庫管理への適用、退職しそうな人を見つけ出す人事管理など、その利用はまだ限定的であるというのが現状です。 これらは、1990年初期までの人工知能の第2次ブームの時期にも提唱されていたテーマであり、当時のコンピュータの処理能力や考えられていた学習機能の限界もあり、ルールベースでは十分には解決できなかったテーマでもあります。
世界の新潮流はサステナブル社会(社会の持続可能な発展)につながるか
大事なことは、これらの社会の変化の兆し、イノベーションにつながる技術革新をさらに、サステナブル社会の創造、社会の持続可能な発展につなげていくことです。 しかし、マクロな視点で発想しているだけでは、サステナブル社会、社会の持続可能な発展 にはつながっていきません。 むしろ、その視点に留まっている限りにおいては、人と人との心が通わず、イデオロギーの衝突ばかりが起きて解決できません。 マクロな発想では問題が解決できないばかりか、問題解決が遅れることで、利害の衝突が深刻化し、より一層のリスクを抱えることにもなります。
サステナブル社会、社会の持続可能な発展 の実現にはもっと、一人ひとりが描くライフスタイルを実現していくという視点、人と人との豊かなつながりを創造していくという視点で、“ 一人ひとりが暮らしの中で実現していく社会の発展 ” について考えなければならないでしょう。 明日のコラムでは、こうした視点から、今年のテーマとしてのサステナブル社会、社会の持続可能な発展の実現について深堀することにします。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一