#81 カジノは持続可能な地域社会の発展につながるか

今日、国会で、「カジノを含めた統合型リゾートの整備を政府に促す法案 (IR推進法案、カジノ法案、カジノ解禁法案)が成立しようとしている。 この法案については賛否両論の様々な意見があるが、夫々の見解を纏めてみると、おおよそ以下の様に集約できる。 尚、統合型リゾート施設とは、カジノ施設、会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設等を統合した施設で、 これまでの公営ギャンブルとの違いは、民間事業者が設置し運営を行うとされているという点である。

  • 経済的な視点からは、以下のようなメリットを挙げることができる。
  1. カジノで集客して、海外からたくさんの観光客が日本に来てくれれば観光収入が増えて地域経済の活性化につながる
  2. 施設建設に建設業界への受注が増え、運営にあたる民間事業者も儲かり、雇用も創出できる

  • 社会的な視点からは、以下のような問題点が挙げられている。
  1. 日本には街々にパチンコ屋もあり ギャンブル依存症 の人が多く(厚生労働省の調査によるとギャンブル依存の人が成人人口の4.8%に当たる536万人に上る(推計))、しっかりした防止策や治療・克服に必要な施設や体制を整える等の対策が必要である
  2. 多重債務者を生み出し、地域社会に居ついてのホームレスの増加、自殺者の増加の可能性がある
  3. マネーロンダリング に使われる可能性がある
  4. 刹那的な事業であり、賭けに勝った人達を誘い込むお店が増えて退廃的な街づくりにつながりかねず、あるいは、賭けに負けた人達がお金を取り戻そうと金策に走り、地域社会の治安が問題となる。
  5. カジノを訪れた人達が統合リゾート地内の施設に囲い込まれて、地域経済を潤すほどには周辺地域でお金を落とさない。そもそも、カジノが目的の顧客は、カジノに直行し、終わればすぐに帰ってしまう
  6. そもそもカジノは、刑法185条の賭博罪に触れないための違法性阻却の論理を必要とする 賭博 である
  7. 賭けにに負けた人のお金を収益にしていて、社会の発展に資するものとは言えない

  • 事業の視点から市場競争力について考えると、カジノは、ラスベガス(アメリカ)、モンテカルロ(モナコ)、マカオ(中国)、アムステルダム(オランダ)、バーデン(ドイツ)が有名であり、近隣諸国でも、既に、韓国、シンガポール、ネパール、ベトナム、オーストラリアが先行して解禁されている。 競合ひしめく中、後発でノウハウの無い日本でカジノ産業に今更参入しても、本当に、集客し観光客を呼び込めるかは不透明である。

何れの見解にしても、本来、カジノが将来の日本社会の有り様として描く姿なのか、持続可能な地域社会の発展につながりうるかという視点で考えるべきである。 海外で成功した事例があるからと言って、本当に、日本の社会にとって害となることなく、更には、将来社会にとっての成長産業として定着しうるものか考えていかなければならない。
 
ハコモノやイベントへの投資は、時が過ぎ、ブームが去れば負の遺産となり社会全体としての重荷になるという数多の経験がある。これまでと同じ発想、経済成長の発想だけでは社会の持続可能な発展にはつながらない。 日本型リゾートをデザインして海外の人達に訴求しても、根底にある設計思想が海外の成功事例を基にしているのでは差別化は難しく、永続する魅力にはなりえない。
 
日本の文化や自然に魅力を感じて海外から多くの人が観光に訪れてくれることは、一つの将来像として嬉しいことであり夢のあることである。日本の文化や心に根ざした日本らしい得意技で将来の社会を描き、地域経済の活性化を図るべきである。


自然を大切に育成し、知恵を絞って地域の文化を磨き、情報を発信し、心と身に染みついているおもてなしで訪日客と接し、双方向にコミュニケーションを図っていくことの結果として、地域社会が発展し文化が発展し、持続可能な地域社会の発展につながっていく。最近は、レガシーという言葉が多く使われているが、こうした地味だけど地に足をつけた伝承性を伴う取り組みこそがレガシーになりうる。

 
サステナビリティ(持続可能性 :“sustainability” )の視点から思考し、将来の社会につながるレガシーを描き、将来社会の心豊かさのある暮らしの中にあるストーリーを描いていくことが必要である。

 
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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