現在の企業を取り巻く経営環境の特徴を挙げるとすれば、国内社会の成熟化の進展、社会的な価値追求の競争、グローバル経済化による市場の短期間での変化、の3点と言えるでしょう。これからの企業に突きつけられた課題は多様であり、それとともにコンサルタントが担う仕事も変容していくと考えられます。
【企業を取り巻く経営環境の現状と企業に求められている価値】
これからの企業に求められていること
- 社会の趨勢
今の社会の趨勢として取り上げるべきことは、まず、グローバル経済化がどんどん進み、国や地域を越えた競争が激化していくということでしょう。これまでの欧米を中心とした経済圏の中での競争という構図から、中国やロシアをはじめとする新興国の台頭、更には、ASEAN、中南米、中東、アフリカの地域としての経済発展(市場としの発展、産地としての発展)へと競争環境が広がりつつあることです。
また、業界の境界を越えた競争が生まれつつあることも大きな趨勢と言えます。かつては、重厚長大から軽薄短小などと騒がれましたが、そうした発想を越えて、例えば、電気自動車など産業自体の融合など、様々な分野での業界を越えた競争が展開されつつあります。また、“もの” の付加価値としてのサービスではなくサービスを実現するための “もの” と主従の逆転もあります。更には、人工知能やロボットの導入など、人と機械の境界を越えた分野での競争も始まっています。
国内の趨勢を見ると、顕著なのは、少子化と超高齢社会化、人口減少社会化といった、成熟社会となっているということでしょう。かつての高度経済成長期のような大量生産、大量販売、大量消費のビジネスを期待することは、もはやできません。 “もの” が市場に溢れている時代にあって市場が成熟化し、新商品を市場に出してもすぐに市場が飽和し、限られた市場を奪い合うゼロサムの状況、競合他社がひしめき合って低価格競争の消耗戦に持ち込まれてしまう状況、個性を重視し一人ひとりのニーズに訴求していかなければならない状況、が今の日本の趨勢と言えます。グローバル経済化し海外市場に打って出るという発想もありますが、やがては世界中で高齢化が進み、早晩、人口オーナス社会になっていくということも念頭に置いておくことが必要でしょう。
- 人々のニーズの変容
こうした社会の趨勢にあって、人々は “もの” への欲求ではなく、これからは、より一層、心豊かに暮らせる社会への願望が高まっていくと予想されます。それでは、心豊かに暮らせるとは、どういうことなのでしょうか。それは、人それぞれの人生観や価値観もあり、平均してこうだということではなく、一人ひとりが自分なりの生き方で生きていけるということだと思います。そのために、一人ひとりが、それぞれに生き甲斐を見つけて暮らしていけること、自分の将来の夢を叶える仕事を見つけ、誰に強要されることなく、働き甲斐(やり甲斐)のある仕事として従事できることが求められるようになっていくと思われます。また、誰しも、殺伐とした環境よりは、心の癒しのある豊かな自然を求めるものです。
- 企業に求められること
社会の趨勢、社会が求めているニーズの変容は、企業の経営にとっても大きなインパクトとなってきています。かつての、大量生産、大量販売、大量消費のビジネスで成立していた経済合理性の追求、株主価値を最大化すればよいという発想だけでは、市場から淘汰されてしまいます。今や、どの企業も社会的に価値のある存在になろうとしていて、社会的価値の追求に先陣を切ろう、二番煎じではない独自の社会的価値を追求し競争優位性にしようと、まさに、社会的価値の熾烈な競争を展開しつつあります。
そうした企業の方向性と言えるのが “持続可能性(サステナビリティ)” と言えます。この言葉は、元々、“社会の持続可能な発展” という考え方から発展してきています。自分だけが儲かれば良いというのではなく、それが “社会の持続可能な発展” に結びついていかなければならないという考え方ですが、今はむしろ、“社会の持続可能な発展” を思考し、“企業の持続可能な成長” を支えていくという発想に逆転してきているとも言えます。 社会が成熟化し市場も成熟化している今の社会にとって “成長” ではなく “持続可能” に向かって行こうというのは、フィット感のある考え方でもありましょう。
先に記したように、社会の趨勢、社会のニーズの変容は、既存商品に固執した事業、既得権益を守ろうという考え方は通用しなくなって行くということにもつながります。“持続可能” に向かって行くということは、すなわち、ものごとに固執しない、しなやかさ(アジリティ)を求められているとも言えます。