#33 投資効率を最優先した経営を推し進める (1) 短期的な投資効率+長期的な回収が鍵となる

1. 経済環境変化を先取りして投資効率の良い分野に経営資源を集中するために

(1) 経済的環境の変化を企業の財務状況の視点で捉える

事業の売上高成長率、投資利益率の向上のための戦略を考えるには、景気の動向(好景気、不況)と財政状況(潤沢・逼迫)の4つの場合のどこに位置するかを捉えることが大前提として必要となる。

 

経済環境の変化と企業の財務状況で戦略を考える
経済環境の変化と企業の財務状況で戦略を考える

 

  • 今後、好景気となることが予測される経済環境において
    ・潤沢な財政状況下で、事業の売上高成長率、投資利益率の向上を考える場合
    ・逼迫する財政状況下で、事業の売上高成長率、投資利益率の向上を考える場合
  • 今後、不況となることが予測される経済環境において
    ・潤沢な財政状況下で、事業の売上高成長率、投資利益率の向上を考える場合
    ・逼迫する財政状況下で、事業の売上高成長率、投資利益率の向上を考える場合

 

不況が長引くと景気刺激のために金融当局は政策金利の引き下げや量的緩和策を打ち出し、政府も公共投資によって市中にお金が回るようにとの政策を講じる。旧来は短期的視点での政策が通用したが、国・地方の財政が逼迫し財政規律の厳格適用と緊縮財政が求められるようになると、そうした政策は敬遠されて成長戦略が重要視される。一方、企業の財政状態も苦しくなり、事業への投資も縮小していく。金融機関も倒産のリスクを避けるために貸し渋りや貸しはがしを模索する。

 

しかし、この時期にこそ低金利での融資が可能であり、成長戦略に沿った事業計画には国・地方の支援(助成金、補助金)が見込まれる。但し、日本では、事業のリスクを背負わない風潮が強く、資金力や担保力、投資した事業の失敗を穴埋めするだけの財力があればのことである。景気の動向と企業の財政状況のどこに位置するかを見極めた事業プランが求められる。

 

(2) 投資効率を考える

既存事業を既存市場で展開する場合には、投資効率を重視して経営戦略を考えることが多い。一般的に投資効率は、投下資本利益率(投下資本回転率×売上高利益率)と交叉比率(売上高利益率×棚卸資産回転率)の比で捉えられる。簡単に言えば、投下したお金に対して在庫を何回転できるかで評価するということである。当然のことであるが、お金をどんどんつぎ込んで在庫をどんどん回転させれば、それだけ売上も伸び、それに伴い企業の規模もどんどん大きく成長していくことになる。これは、本質的に、成長経済下での大量生産・大量販売・大量消費を想定した時に成り立つ発想に由来している。

 

投下資本利益率と交叉比率の両方から投資効率を総合的に評価する
投下資本利益率と交叉比率の両方から投資効率を総合的に評価する

 

 

(3) 投資回収率(投資への回収)を考える

激変する社会、多様化する社会において商品が短命化していく状況においては、投資効率よりも更に遡って、商品の開発段階から投下した資本をきちんと回収できるかが問題となる。また、企業が持続可能な成長を成し遂げていく上で考えていかなければならないことは、個々の事業の短期的な業績(売上や利益)ばかりではなく、企業全体としてのブランド価値の向上である。そのためには、社会の持続可能な発展(サステナビリティ)の視点から、個々の事業についても、長期的に経営全体を描いて研究開発投資や設備投資を考えていく必要がある。

 

具体的には、研究開発費や設備導入に関わる初期投資、人的資源への投資、在庫投資などの運用コストを支払っても更にそれを上回る利益が得られるか、それを原資として新たな事業の開発が可能かどうか、すなわち、短期的な視点での投資効率を捉えつつもそれ以上に、下記の費用に資金を投資し続けても得られる利益によって、企業が持続可能な成長を成し遂げることができるかが経営戦略上の判断として重要となる。

 

  • 売価と販売数量
  • 研究開発費と設備投資(初期費用)
  • 人件費(販売に関わる人件費、教育コスト等)
  • 在庫投資(仕入原価、製造原価)
  • ブランディング、販売促進に関わる費用
  • サービス提供に関わる費用
  • 業務のマネジメントに要する費用(管理費)
  • 資金調達コスト 等

 

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一

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