「意志疎通」とは
一般的に、コミュニケーションを日本語では「意思疎通」と訳されます。「意思疎通」はお互いに考えていることを伝え理解しあうことです。一方、当コラムでは「意志疎通」という言葉を使っています。「意志疎通」は、さらに、目的や目標なりを定めて、協力関係を構築していくことです(意味解説辞典)。
コミュニケーションと意志疎通
「301 どのようなコミュニケーションが社会的価値の創造に結びつくのか」では組織におけるコミュニケーションの意味を以下のように定義しました。
- 組織にとって重要なのは「組織内外における事象について、何らかの判断材料を加えて相手に伝え、相互の理解を確認し、どうしたらよいかという行動のモデルを協議し、決定したことを共有しあう」ことです。これが組織に求められる「コミュニケーション」(意志疎通)の意味です。
しかし、多くの組織において、本当に「意志疎通」ができているかは疑問です。では、「意志疎通」ができない原因は何でしょうか?
「意志疎通」のできるコミュニケーションの要件
その事象に関して知識がないもの同士が、どんなにその事象について話し合っても、その事象に対する対応策を深めることはできない。コミュニケーションが成立するためには、前提として、相互に共有しうる何かが必要なのである。
組織のコミュニケーションにおいて一番身近な例は「業績を伸ばしたい」という事象でしょう。目的や目標が伝えられず、現状も理解されていないなら「意志疎通」は不可能でしょう。そこで、以下に「意志疎通」を可能にするコミュニケーションにとって「相互に共有しうる何か」について列挙することにします。
- 目的を共有する:持続可能な未来社会の発展につながる、誰もが自分もそうだよと思える心の奥底にある思い(パーパス(=企業の社会おける存在意義、個々人の生きる目的))を、自覚的して常に意識し、心にとまるように表現し、目にとまるように掲げて、共感しあい、そうした過程をオープンに共有すること。
- 目指していく姿を共有する:目の前で起きている事象に対して対症療法ですぐに対応しなければならないこと、社会に視座を高めた視点で本質に思いを巡らせて対応するべきこととを見極め、目指していく姿(あるべき新たな「在り様」)を共有すること。
- ロジックを共有する:結論(結果)を共有するだけでなく、アイデアや解決策を導き出していく思考の過程(ロジック)を共通の方法として共有すること。
- ビジネスセンスを共有する:「売上の低下⇒業績を達成するには」「顧客の離反⇒顧客経験価値を創造するには」「生産性の低下⇒効率向上を図るには」などの課題を見抜く直感、日々発生する新たな事象に対する選択肢の発想、行動に移すための判断基準、利害、心の内に潜むバイアスの感知といった、多面的に捉えた洞察を肌感覚で共有すること。
- 実現を共有する:(1)社会の中で自社が何を実現できているか、なすべき変革がどの程度実現されているか、といった成果だけでなく、 (2) 実現に向けた取組みに対する問題意識、(3)状況に対する対策とその効果と進捗状況、(4)達成感、を共有すること。これは、データドリブン経営の実現にもつながる。
- 知的情報を共有する:情報の非対称性を無くし、オープンに上下双方向/組織横断で情報を共有すること。これにより、ビジネスエコシステム全体で情報を収集し、社会の趨勢と社会発展の方向性、顧客が求めている経験価値を共有しあえるようにする。また、組織内外の知識を共有し、知の探索と知の深化の両立を可能にする。これは、両利きの経営の実現にもつながる。
深層コミュニケーション
当社ではこのような「意志疎通」を実現するコミュニケーションを、特に「深層コミュニケーション」と名付けています。「深層」とつけているのは、これらの要件を満たしたコミュニケーションであれば、対処しなければならない事象についてお互いに諒解ずみであり(コミュニケーションする以前に、既に理解され、意思疎通が図られている状態である)、すぐに、事象に潜む本質的問題の深掘りだったり、根本的対策の議論に入っていったりすることが可能になるからです。
なお、深層コミュニケーションの前提として「個々人の社会的自立と自律行動への意識」が必要となることは言うまでもありません。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一