#302 戦略眼と現実解 どのようなコミュニケーションが創造意欲に燃える職場に変貌させるのか

目標の業績(数字)を達成しようともがけばもがくほど、また、日々の仕事に追われていればいるほど、新たに何かを創造しようという意欲は薄れてしまいます。このような状況では、「一日の稼働時間の20%を創造的活動に割り当てなさい」と言われても、それが重荷になることもなりかねません。

自社の事業(商品、顧客、サプライヤ、プロセス)のことばかり考えていても、新しい何かを創り出すという発想には結びつきません。そのような思考で思い描けるのは改善(カイゼン)であって創造ではありません。効率化やコスト削減ばかり考えていても、低価格戦略で言うところの価値を得られても、新たな企業価値を生み出すことはできません。

発想を転換するために必要なことは、自分たちが成し遂げようとしていることが、社会にとってどのような価値があるかという視点です。尚、当コラムでも、企業として創造する社会的価値について考察します。ここで、「社会」といっても多様で物理的にも広大な広がりのある「社会」を対象とするのではなく、企業の本業である事業に関わりのある「社会」(狭義の社会)を対象に考えてしていくことになります。

創造的意欲を掻き立てるコミュニケーションとは

社会への意識がないもの同士が、どんなに創造について話し合っても、新たな創造は起これない。コミュニケーションが成立するためには、前提として相互に共有しうる何かが必要なのである。

先のコラム「どのようなコミュニケーションが社会的価値の創造に結びつくのか」では、組織におけるコミュニケーションの意味を以下のように記しました。

  • 組織にとって重要なのは「組織内外における事象について、何らかの判断材料を加えて相手に伝え、相互の理解を確認し、どうしたらよいかという行動のモデルを協議し、決定したことを共有しあう」ことです。これこそが組織に求められる「コミュニケーション」の意味です。

また、「前提として、相互に共有しうる何かが必要である」として「個々人の社会的自立と自律行動への意識」があってはじめて、社会的価値創造につながるコミュニケーションが可能となるとも記しました。

しかし、それだけでは創造意欲に燃える組織に変革させることはできません。「社会的自立と自律行動への意識」を持った個々人が「社会を豊かにしたい」(トランスフォーメーション)という夢を持たなければ創造意欲は起こり得ません。しかし、その夢こそが働くためのモチベーションになります。その夢の実現に向けた思いがエネルギーとなって創造意欲が燃え上がっていきます。

創造的意欲を掻き立てるコミュニケーションの要件

多くの人たちが協働している組織の中では、同床異夢といった事態は、当然のことながら、起こり得ます。しかし、だからと言って、この燃え上がる炎(創造意欲)を消すようなコミュニケーションであってななりません。コミュニケーションの前提となるのは相手や相手が語る夢に対するレスペクトです。

そして、その上で、創造的意欲を掻き立てるコミュニケーションとなるために必要となる要件を以下に列挙します。

  1. 社会を俯瞰する:「社会にとってどのような価値があるか」を考えてコミュニケーションを図るためには社会を俯瞰することが必要です。
  2. 目的を掘り下げる:「自分たちが成し遂げようとしている夢」の目的は何かを深掘りすることが必要です。それは、自分自身の「生きる目的」と重なるでしょうし、企業や組織の存在する意義と重ね合わせることもできるでしょう。
  3. 客観的に捉える:思い描いている社会にとっての価値や自分たちが成し遂げようとしていることが独りよがりであってはなりません。広い視野で客観的に社会を捉えることが必要です。もちろん、データによって裏付けをとることも必要ですが、過去のデータだけではフォーサイトを描けません。そこで、社会の趨勢や社会発展の方向性から捉えることも必要となります。
  4. 多様な視点で捉える:思い描いている社会にとっての価値や自分たちが成し遂げようとしていることが誰にとっても公正公平であるように語り合うことが必要です。そこでは、特に、人や自然環境の多様性を考え、多様性を包摂することが求められます。重視されるのは、経済合理性よりも倫理ですが、倫理を重視するとトロッコ問題のような事態に対処できなくなる場合もあります。そのような事態においてはトリアージのように経済合理性で判断しなければなりません。経済合理性よりも倫理を重視するということは、利己的な利害や損得で考えないということです。また、多様な視点には、独断であったり、恣意的であったりすることを避けると言う意味も含まれます。
  5. 反対の意見を考える:個々人の夢は異なるものであり、そこでは必ずコンフリクトが発生します。相手や相手が語る夢に対するレスペクトも必要であり、否定して排除しようとするのではなく、より根元に遡って共通する解決策を見つけ出したり(これを「機能的等価価値」と言います)、一旦、括弧に入れて棚上げしたり、アウフヘーベンで考えたりすることも必要となります。また、システムデザインの手法で解決するのも良いでしょう。

尚、当社では、上記の要件を実現するための思考方法を “Trigonal Thinking (TM)” として整理しています。

冒頭で「目標の業績(数字)を達成しようともがけばもがくほど、また、日々の仕事に追われていればいるほど、新たに何かを創造しようという意欲は薄れてしまいます」と記しましたが、現実と創造をバランスをとって考えることが必要です。現実と創造のバランスを図るという意味でも、上記コミュニケーションの要件は必要なものであるとも言えます。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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