#301 戦略眼と現実解 どのようなコミュニケーションが社会的価値の創造に結びつくのか

当コラムでは、企業として創造する社会的価値について考察します。従って、「社会」といっても多様で物理的にも広大な広がりのある「社会」を対象とするのではなく、企業の本業である事業に関わりのある「社会」(狭義の社会)を対象に考えてしていくことになります。

社会について異なる意識を持つもの同士が、どんなにその社会について話し合っても、その社会に対する意識は深まらない。コミュニケーションが成立するためには、前提として相互に共有しうる何かが必要なのである。

組織におけるコミュニケーション

一般的にコミュニケーションは「意思疎通」と訳されています。当然のことですが、組織において大事なのは意思疎通なので、組織の中では、常に「コミュニケーション」の頻度だけでなく質が問われます。

世間話しであったり、個々人の不平不満の吐露であったりでは、組織にとって何の役にも立ちません。組織にとって重要なのは「組織内外における事象について、何らかの判断材料を加えて相手に伝え、相互の理解を確認し、どうしたらよいかという行動のモデルを協議し、決定したことを共有しあう」ことです。これこそが組織に求められる「コミュニケーション」の意味です。

社会的価値の定義とコミュニケーション

当社では「社会的価値」を以下のように定義しています。それは、前提として、経済視点(ファイナンス)でいうところの企業価値を超越して、社会の発展に結びつくことが求められます。

□社会発展に還元される経済的価値、 □科学技術発展、 □文化発展、 □地域発展、 □組織変革、 □合理性の創造、 □安全安心の創造、 □仕事の創造、 □心豊かさの創造、 □良き人生の実現に向けた支援、 □人権の保護と深化、 □自然環境の保護・保全・育成(地球温暖化含む)、 □社会規範の発展と遵守、 □平和社会の構築などの経済的価値を超えた価値である。

社会的価値を創造するためには、たいへん広い視野が求められます。冒頭で「前提として、相互に共有しうる何かが必要である」と記しましたが、自分たちや自分たちに関わりのある物事について、すなわち、自社製品や競合製品、市場、顧客や供給業者、ビジネスプロセス、組織の在り様、直近の業績やその見通しについて語っていればよいというものではありません。

コミュニケーションの前提として求められるのは個々人の社会的自立と自律行動への意識

企業の生産性は、個々人が自立し自律して行動できるようになることで高まります。これは企業の社会的価値を創造するためにも求められることです。そしてそれは、個々人が社会に視座を高めることによって可能となります。当コラム「#293 自立と自律 自己実現ではなく生きる目的の実現」では下記のように提言しています。

  • 環境や社会視点が求められている今の社会にあって、個々人の意識も環境や社会視点に広がり、かつ、深まってきている。人それぞれにある価値観は多様であり、多様性が重視される今日にあって「自己実現」を単純に「自分の人生をどう生きるか」に当てはめることはできない。むしろ、これからは、「自己実現」ではなく「個々人の生きる目的の実現」とすべきである。
  • 「個々人の生きる目的」を持って生きることは「自立」していることでもあり、「個々人の生きる目的を実現」するためには、他人から指図されて成し得ることではなく、「自律」していなければ成し得ない。
  • 「企業の社会の中での存在意義」と「個々人の生きる目的」が融合することで「企業の社会的価値の創造」が実現されていく。今日の合理的組織とはそういうものである。

この「個々人の社会的自立と自律行動への意識」があってはじめて、社会的価値創造につながるコミュニケーションが可能となります。そして、そのためには「リスキリング教育」「リカレント教育」の以前に、何よりも「社会的に自立し自律して行動する」ための教育が必要となります。この視点が、日本企業の人材育成にとって根本的に抜け落ちています。

社会に視座を高める覚悟を決める サルトルの言葉より

選択するということは、自分がどんな人間になるかを選ぶことである。(中略)決断を下すときは人類全体を思い、人類の行いすべてに責任を負うくらいの覚悟をしなければならない。こんな境遇に置かれた自分は犠牲者だとか、間違ったアドバイスを受けたからだとごまかして責任逃れをすると、人間としての資質に欠ける偽りの実存を選ぶことになり、自分自身の“本来性”から切り離されてしまう。 (ベイクウェル 2016、#1 p.19)

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

【参考文献】

  1. サラ・ベイクウェル、向井和美訳、『実存主義のカフェにて 自由と存在のアプリコットカクテルを』、紀伊国屋書店、2024.4.11(原著:2016)

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