インサイト(洞察)の能力は企業のあらゆる活動に欠かせません。しかし、経営において最も必要な能力はフォーサイト(先見(の明))です。
何故、フォーサイトなのか
どの企業のホームページにも、パーパス(企業の存在意義)や経営理念が書かれています。また、理念のページの多くには Mission – Vision -Value(逆にVision-Mission-Valueもあり)も掲載されています。しかし、何かが足りないと感じます。それは、自社の事業の意義や有用性に囚われているからだと思います。
では、どうしたらよいか、それは多分、社会の中に変化を生み出していくフォーサイトを描くということに尽きます。
フォーサイトを起点としてトランスフォーメーション戦略を描く
当社では「社会の趨勢⇒社会発展の方向性⇒社会的価値の定義⇒社会的機能の定義」をフォーサイトとして描くべきことと考えています。
また、今は、顧客経験価値の視点に立って、その求められている価値を提供することが問われています。顧客も社会の中で生活していますので、自社のプロダクトの市場価値を起点にして描くのではなく、以下のように、終着点として、顧客が社会の中で生きていく目的に訴求して描くことも必要になっていきます。
- 企業として社会に視座を高めたフォーサイト(社会の趨勢⇒社会発展の方向性⇒社会的価値⇒社会的機能)を示す
- フォーサイトに基づいて、①将来の社会の中にどのような変化を生み出していくか、②どのような新たな価値を創造していくか、③どのような仕組み(ビジネスモデル)で取り組んでいくかを、トランスフォーメーション(変革していく社会の新たな在り様)戦略として描き出す
- トランスフォーメーション戦略が「社会の中で存在する目的や意義」をどのように実現していくかをシナリオとして示す
- ステークホルダーに対して、社会の中に生み出していく変化、新たに創造する価値が、顧客経験価値にどのように結びついていくかをストーリーとして描く
ここで何よりも大事なことは、これを、観念論(理念、Mission – Vision -Value)で記述するのではなく、「社会の中で企業が存在する意義」「個々人の生きる目的」を融合させた言葉で表現することです。
フォーサイトを起点としたトランスフォーメーション戦略は組織の生産性を高めていく
これは「理念に基づく経営」から「パーパス経営」に脱却していくことを意味します。
理念は企業として取り組んでいく規範となるべきものです。当然のことながら、多くの人たちが組織として行動していくためには規範となるものが必要です。しかし、協働していくためには「社会の中で企業が存在する意義」「個々人の生きる目的」が結びついていく必要があります。それは個々人にとって協働していくための動機になり、みんなが自立し自律して行動していくための目印になるものです。それは経営と個々人の間での双方向のエンゲージメントの根拠となるものです。
みんながフォーサイトに共感しなければ協働の目的は共有されません。しかし、協働の目的が共有され、個々人の生きる目的との融合が図られると、個々人は、その目的の下に動機づけられ、その目的に向かって自立し自律して行動するようになります。その結果、現場で起きる様々な変化や事象に対して個々人が臨機応変に対処するようになり、組織の生産性が高まります。それは規範に縛られて硬直化した組織、指示待ちの組織、指図されただけのことをしていればよいという組織、マニュアル通りに動く組織では成し得ないことです。
そして、何よりも、フォーサイトがなければ破壊的イノベーションを起こし得ません。そもそも、持続的イノベーションしか起こせない組織は、早晩、市場の成熟化、低価格競争に巻き込まれて衰退していく運命にあります。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一