#290 戦略眼と現実解 社会と環境に視座した変革への挑戦 一人ひとりのニーズへのきめ細かな対応

環境破壊を引き起こしてきた大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄システムからの脱却 「パーソナルニーズへの対応」

今はアイデンティティの時代と言われています。みんなと同じでなければならないという没個性、画一性の社会は時代遅れとなり、誰もが自分のアイデンティティ(独自性、自分らしさ、個性)を大事にして生きています。そして、誰もが自分なりの個性を際立たせて、自分以外の人に向けてアピールしたいと生きています。

そのことは、画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費ではなく、自分らしさを生かせる自分だけの消費、すなわち、パーソナルニーズを満たす経済システムであることが求められることを意味しています。

また、パーソナルニーズを満たす消費は、自分だけのものの消費なので、大量廃棄を抑制する効果も見込まれます。

「範囲の経済」によるパーソナル・ニーズへの対応

「範囲の経済」という言葉がありますが、それは、多種多様に異なる製品を生産する際に共通の生産設備を利用することでコストを削減しようという考え方です。販売にしても、多種多様に異なる商品を共通のチャネルを通して販売できればコストを削減できます。一人ひとりのニーズを満たす製品を生産・販売するという目的に沿った考え方です。

「範囲の経済」の戦略を実現するには、今のところ、主に、プラットフォーム化、モジュール化、インターフェースの規格化、アプリケーションソフト化といった手法が考えられます。プラットフォーム化は製品の基盤となる部分を標準化することで生産設備やプロセスを共有できるようにしてコストダウンを図る手法です。多様なニーズを類型化してモジュール化することで同様にコストダウンを図ることができます。プラットフォームに多様に組み合わせて装着すれば多様なニーズをある程度は満たすことができるという考え方です。また、インターフェイス規格を設定して公開すれば、外部の企業(サプライヤ)が外付け部品やサプライ品を供給するようになって多様なニーズを満たしてくれるようになるという手法です。多数のサプライヤがその市場に参入すれば市場を制覇できます。アプリケーションソフト化は、共通のハードウェアの中で様々なアプリケーションソフトが多様なニーズを満たすというものです。厳密には「範囲の経済」とは言い難いかも知れませんが、異なる機能ごとに製品を生産する必要はなくなります。

パーソナルニーズへの対応も「規模の経済」からは抜け出せない

しかし、「範囲の経済」は、完全なオーダーメイドのパーソナルニーズを満たすという考え方ではありません。あくまでも、自分らしさを生かせる自分だけの消費を凡そに満たすための一つの方策という位置づけでしかありません。

また、プラットフォーム、モジュール、サプライ品の生産・販売の基本原理には、これまでと同様、「規模の経済」による効率性や経済合理性の追求の仕方が効いてきます。そこから脱却している訳ではありません。

「範囲の経済」から破壊的イノベーションを考える

この意味で「範囲の経済」も、画一品ではなく多様なニーズを満たすという付加価値を実現したにしても、環境破壊を引き起こした大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄の経済システムを本質的に変革するものではありません。

環境汚染問題や資源争奪問題を解決するべく社会変革を考えるのであれば、根底にある「規模の経済」による効率性や経済合理性の追求の仕方から抜本的に変革することが必要になります。

「範囲の経済」においても、これまでの「規模の経済」による効率性や経済合理性の追求の仕方が環境破壊問題や資源争奪問題を引き起こしているのであれば、この手法も間違いなのかも知れません。代替手段を考えなければならないのであれば、そこにこそ破壊的イノベーションの種が潜んでいるとも言えます。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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