#297 戦略眼と現実解 スマート社会がスマートでなくなる日 経営をどのように導いていくと良いか?

今や、私たちは、日常生活のあらゆるシーンでパソコンやスマホ、タブレットといった情報機器を使っています。そして、スマートと言われるシステムには膨大なデータを学習したAI機能が実装されています。とりわけ、生成AI技術によって、普段の会話、メール、文章のまま情報を探索したり、作成した文書を編集したりすることができるようになって、その利便性は加速度的に向上しました。我々は言語を使って思考していることを思えば、これは人間にとってのエポックとなる出来事になるのかも知れません。

スマート社会がスマートでなくなる日

本コラムの「スマート社会がスマートでなくなる日」が意味することは、表面的には、機能的陳腐化に相当します。誰もがスマート社会に慣れてしまうと、そこには、スマートさは感じられなくなります。日常の経済活動の多くはスマホで決済されます。教育においてもタブレットは当たり前になってきました。スマート農業で作業を楽にし収量を増やすことも広がっています。介護の現場や建設現場での活用も進んでいます。日本では遠隔医療は遅れていますが徐々に広がっていくものと思われます。今でこそ、「スマート」という言葉を使った市場は拡大して多くの雇用を生み出していますが、急速に技術革新が進む今日では、「スマート社会がスマートでなくなる日」が来るのは、意外と早いのではないかと思われます。

次なるエポックは「コミュニケーション」の変革にあります

現時点での生成AI技術の使い方は、まだ、幼稚な段階にあると考えられます。企業経営におけるコミュニケーションは関係する人たちの間での双方向の意思決定の連なりと言えますが、この意思決定の中身そのものは、情報や知識の伝達と理解というよりも、それを取捨選択して、どういう行動をとれば良いかをモデル化して議論し合い、調整していくという内容になります。

下図は、今日の変化が激しく先の見通しが難しい時代にあって、ダイナミックに意思決定をしていく組織のコミュニケーションシステムの在り様を描いたものである。

上図では、佐藤俊樹氏の著作『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』を引用し、コミュニケーションを「情報・伝達・理解」と位置付けて、その内容を「相互に前提として循環的に結びついた決定の連なり」としています。本図は、そこに「モデリング」の考え方をつけ加えて描いています。

このモデル化にAI技術を活用するところまでは至っていません。とは言え、早晩、モデル化の一部の思考にAIが代替される時がくると推測されます。これが「スマート社会がスマートでなくなる日」のその後にくる未来です。

これからの経営を導いていくために

今日、というか、言われて久しい「データに基づく経営」という言葉があります。日本人はとかく「勘と経験と度胸の経営」に頼りがちですので、データで判断することには不慣れですし、そもそも、データは過去のものであり、兆しを捉えて経営するために、どんなデータを捉えたらよいかということにも疎いのが実態です。

これからの経営の在り様

まず、大事なことは、プロセス改革ではなくコミュニケーション改革です。デジタル・トランスフォーメーションという言葉がありますが、一刻も早くプロセス改革の段階を卒業しなければなりません。

デジタル・トランスフォーメーションの本丸はコミュニケーション、すなわち、モデル化を「勘と経験と度胸に拠る」のではなく「データに拠る」ことへの変革であり、もうひとつは、経営と現場のリアルタイムでの情報の伝達と理解の共有によるモデルへのフィードバックの即時化です。

スマート社会化の逆機能を乗り越える

スマート社会化には、多くの逆機能(リスク、社会にとってのデメリット)も多く含まれています。以下は逆機能の典型でもありますが、これらの弊害が拡がっていくことも「スマート社会がスマートでなくなる日」の一つの姿です。こうした逆機能を解決するイノベーション、新たな法制度(規制)の整備を待たなければなりませんが、企業経営においては行動規範や社内監査、業務基準やマニュアルの整備によって対症療法として対策できることはたくさんあります。

  • 現在のAI技術は、膨大なデータを学習して機能を実現していますので、これまでに人間が創り出していないことを生み出すことはできません。実際に、生成AIにどんなに問い詰めた質問をしても同じ既知の知識に基づく回答しか得られなくなることが起きます(フレーム問題)
  • 意志を持たない機械であるAIシステムは言葉のつながりの確率計算で回答しているだけですので、とんでもない結果をだしてくることもあります。また、回答を鵜呑みにして使ってしまうと無断盗用ということにもなってしまいます。
  • AIに意思決定を担わせてはならない理由も、とんでもない結果をだしてくるという点にあります。AIに意思決定までをも担わせることは倫理的にも問題があります。
  • AI技術自体はどんどん洗練されていきますので、回答もどんどん洗練されていきます。それが音声、画像、動画生成にも用いられることで精巧なフェイクが作りだされるという事態も実際に起きています。

現時点では、以上の2点によって「経営をどのように導いていくと良いか?」という回答としたいと思います。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

  

本コラム、および、『ダイナミックな組織システムにおけるコミュニケーションシステム』についてご興味のある方は、こちらからお問い合わせください。

【参考文献】佐藤俊樹、『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』, 岩波新書1994, 岩波書店, 2023.11.17

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