先のコラムでも記したように「規模の経済」が経済成長の基本原理でしたが、大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄の文化を社会の中に浸透させて、環境汚染という問題のみならず、国際社会の分断という問題すら引き起こしてきてきました。
廃棄をしない消費社会の基本コンセプト
中国の儒教の経典に「入るを量りて出ずるを制する」という言葉があります。収入を正確に量ってそれに見合う支出の計画を立てるという意味です。堅実な経営を実践しようとするのであれば、今でも、通用する経営哲学です。しかし、大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄の経済システムが社会問題を引き起こしてきた今日においては、「出ずるを制する」ために「入るを量る」という逆の思考が必要なのかも知れません。
- 大量廃棄には、廃棄物回収コストや廃棄コストがかかりこれは税金によって賄われています。
- 地球温暖化にともなう気候変動によって風水害が頻発し激甚化してきています。これらの対策にかかるコスト、被害にあった社会インフラの復旧、被災者の支援なども税金によって賄われています。
- 多発する山火事によって消失した森林の回復にも自然の力だけでなく人の手も加えなければなりません。
- 水害や干ばつによる農作物の被害は、輸入コストとして食生活に直結してのしかかります。
- 災害の頻発化と激甚化に伴い、火災保険料も上昇し、物価の上昇にもつながっていきます。
これらの社会コストは現在の我々にとっても重荷になっていますが、私たちの子、孫、曾孫へと将来世代の人たちにも更に重くのしかかっていくことになります。人口減少により地方の税収が減少することを考えると税金で賄うことも限界があります。
廃棄をしない消費社会の経営モデル
大量消費による廃棄コストは、生産・販売業者である企業は、以前は負担していませんでしたが、今後は、社会コストを負担することにはなりますが、「出ずるを制する」の発想で「できる限り廃棄しない工夫を織り込む」ことで、少しずつでも廃棄量を抑制していくことが必要なのかも知れません。
- 自然由来の素材を使用するだけでなく、できるだけ長持ちする素材を使用する
- 耐久消費財であれば、耐用年数を伸ばす設計にする
- 消費財であっても、繰り返し使用できるようにする
- 消耗の激しい部品については、本体から切り離して、取り換え可能なようにする
- 修理しやすい構造にして、可能な限り修理して使用できるようにする
- リサイクルできる市場を形成して、使わなくなっても、中古市場で再利用できるようにする
- シェア市場を形成して、一人で所有して使うよりも、多人数で共有して使うようにする 等
廃棄をしない消費社会のメリット
人口減少と低経済成長下では大量生産・大量消費の発想では市場が縮小するばかりです。耐用年数を伸ばし、修理したり買い換えたりする回数を減らすことで、初期コストは上昇しても長期的な使用コストを低減して採算が取れるようにすれば、消費者にとってはメリットになります。それに省エネ設計であれば脱炭素化にも貢献することができます。長持ちさせる分野での特許も戦略的に有効になりえるものです。近代化によって減少してきたのづくりや匠の技術も復活する機会が得られます。そして、そうした匠を含めたビジネス・エコシステムを育てることで、より豊かな社会づくりにもつながります。
人口減少により過疎化が一層進めば、社会インフラなどは老朽化してもメンテナンスや交換のための原資が確保できないために、街は廃れていくばかりとなります。耐用年数の長い設備を使用すれば、自治体のコスト削減にもつながり、財政負担に悩み消滅危機を抱えるむ自治体にとっては、将来にわたっての存続と自立に、そして、負担を強いられてきた行政コストを削減して街おこしにも使えるようになり、自律につながっていきます。
新たな経済成長モデル 大量生産品の消費から経験価値の消費への破壊的イノベーション
「規模の経済」に反するとしても、社会全体としての合理性の追求につながるのではないかと思われます。これまでの経済成長モデルは「大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」でしたが、これからは、以下に示す「持続可能性の経済」を基本原理とする経済成長モデルとなります。
多品種少量生産・経験価値の販売(提供)・経験価値の消費・少量廃棄
画一品の大量生産・大量販売品ではない商品には、生産者の物語や歴史が刻まれています。消費者も愛着を持って使うことで、それぞれの物語や歴史がその商品に刻まれていくます。それは、単なるパーソナルニーズを満たすということではなく、経験価値の消費ということになります。ここで示した経験価値には以下の価値が含まれます。
- 使い捨て消費から長く大切に使い続けられるという経験価値
- 社会問題の解決につながる社会価値の創造という経験価値
こうした大きな変化こそが、サステナビリティ社会への破壊的イノベーションにつながる変革であると考えています。
廃棄をしない消費社会では社会コストの負担を含めた収益を捉えることになります
利潤を追求する企業の立場から見ると、社会コストという新たな負担が増えますが、経験価値を付加価値(ブランド価値)として価格転嫁して提供することができれば、増加した費用の回収につながります。消費者にとっても付加された経験価値の消費を通して社会問題の解決につながることで満足が得られます。株主にとっても価値の増大にもつながります。地方の行政においても社会コストの負担を軽減できるというメリットがあります。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一