当コラムでは、これまで「社会的価値の創造」「事業の社会への影響力の発揮」「真似のできない希少な優位性の構築」について言及してきました。これらは「行動決定要因の社会構造」の右上の象限([個々人-個としてのアイデンティティの確立]の象限)に位置付けられました。そこでは、個々人の自立し自律した行動が求められ、また、個々人の自立し自律した行動を促進する組織づくりが求められるという点についても指摘しました。
社会的価値を企業のパーパスに置き換えて表現すると「企業が社会の中に豊かさを育んでいること」となります。これは「ポジティブ経営戦略」と言うこともでえきます。
一方、ESG経営では、例えば、TCFDのレポーティング規格に基づくサステナビリティレポートの公開やネガティブスクリーニングによる格付けが行われます。これは、明らかに[システムとして-集団としてのアイデンティティの確立(維持)]になりますので左下の象限に位置付けられます。そして、ESG経営では必然的にネガティブ経営戦略を取ることになります(経営環境の変化によって生じるリスクを捉えて開示基準に基づいてマテリアリティを特定し戦略的に対応する)。
ESGの視点での経営は投資家や株主の保護という意味において重要性があります。現在、多くの企業の経営戦略は「ネガティブ経営戦略」を採用しています。
しかし、社会価値を創造していく取り組みを展開して、企業の社会への影響力を高め、真似のできない希少な優位性を構築していくという意味においては「ポジティブ経営戦略」を採用することが必要となります。
如何に、ネガティブ経営戦略からポジティブ経営戦略に転回していくかがこれからの企業経営における本質的な課題となります。ここで、社会的価値でありうるための条件は「自立し自律した豊かさを育んでいること」でしたが、『自立と自律』がこれからの取り組みをデザインする上でのキーコンセプトとなります。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一