このような言葉をしばしば耳にします。特に、情報部門の方々からの質問が多いようにも思えます。今から30数年前、高度経済成長期の終焉期でバブル経済崩壊の頃、ある企業が実現した無人工場を目にした経験のある私にとって、その後も発展を続けてきたであろう今の日本にあって、未だにこんな時代遅れの質問をする人たちがいるとは、まさに衝撃です。
何よりも、こんな質問がでない組織になる
技術が発展し、グローバル社会も発展する中で、日本だけが取り残されていると感じがするとしたら、それは、こんな質問がでること自体に問題があり、本質的にこうした状況を変えていかなければならないと自覚すべきです。失われた30年の現実がここにあります。
トランスフォーメーションとは「その企業が目的としている社会の新たな在り様になる」ことです。そのためには、前提として、目的、新たな在り様、その実現の道筋(バックキャスティングとロードマップ)を明確にして、企業内でコンセンサスを形成しなければなりません。単に「Aを変革する」という言葉で言い表せる概念ではありません。コミュニケーションも、単なる「情報伝達」「意思疎通」ではなく、組織の中でこのコンセンサスを形成し実現化していくための主要な機能であるとして定義しなおす必要があります。デジタル技術はコミュニケーションを円滑に進めるための手段となるものです。ICTという言葉の意味合いも、ICTを使って変革するという言葉の意味合いも、トランスフォーメーションから捉え直して定義しなおす必要があります。
今からでも遅くありません。まずは、この問題意識自体に内在する問題を自覚し、「DXと言うけど、何をしたらいいの?」「そもそも変革って何?」という質問がでない組織になりましょう。
「儲け続けること」と「成長し続けること」が両立する組織になる
前回の当コラム「#275 戦略眼と現実解 儲け続けること、成長し続けること」で「両利きの経営」(#1)に触れました。企業が成長し続けるためには破壊的イノベーションによって、柱となる新たな収益源を作らなければなりません。エコシステムも構築しなければなりません。そのためには「探索」が必要です。
企業が儲け続けるためには、既存事業の改善や持続的イノベーションを続けなければなりません。新規事業であっても事業化し収益源となるための改善も必要です。そのためには「深掘り」が必要です。
文字通り、「儲け続けること」と「成長し続けること」が両立する組織、すなわち、「両利きの経営」ができる組織になることが、トランスフォーメーションであり、DXがあります。
変化を生み出す組織になる
「儲け続ける」ためには変化を捉えて適応していくことが必要です。一方、「成長し続ける」ためには自ら変化を生み出していく必要があります。これを両立させることは難しいかも知れません。しかし、この両者は、以下に記すように繋がってもいます。
世の中にはビジネス化されたアイデアやビジネスモデルが無数にあります。既存のビジネスでは実現できていなかった機能(シーズでもニーズでも)も気づかれなかっただけで潜在的には無数にあるはずです。イノベーションは無から生み出されるというよりも、顕在機能と潜在機能を組み合わせて、これまでには無かった全く新しいアイデアやビジネスモデルを構築することでもあります。「変化を生み出す」とは、社会変革をもたらす破壊的イノベーションを意図して巻き起こしていくことでもあります。
変化を生み出す組織になるためには、企業の中に「価値創造の取り組みの優位性」を築いて「価値創造の取り組みの社会への影響力」を発揮できる仕組みを構築していかなければなりません。これこそが「真のトランスフォーメーション」であり「真のDX」なのです。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
- チャールズ・A・オライリー,マイケル・L・タッシュマン、入山章栄監訳・解説,冨山和彦解説,渡部典子訳、『両利きの経営 -「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く-』, 東洋経済新報社、 2019.2.28