#270 「創造的仕事を創造する社会」への戦略眼 製品の競争戦略ではなく組織の優位性戦略へ

 当コラム「#261 自分の意志で自らモデル化していますか? モデルのすり合わせこそがコミュニケーション」で、モデルを『事象を構成する要素の目的関係性、因果関係性、相関性などを使って定式化して説明するもの』と定義しました。

モノコトからモデルの時代に

 最近ではモノやサービスの利便性だけでなくコスパが重視されていますが、また、コトの消費とか、顧客体験価値とかが重要と言われていますが、これらは、利便性やコスパが「時代が求めていること、社会が求めていること、市場が求めていること、顧客が実現しようとしている生きていく目的」と結びついた複合した価値であると言えます。

 このように現在では、モノコトの利便性や品質といった新たな機能を創造ばかりでなく、その深層にある社会や市場や顧客の個々人にとっての意味を「複合した価値」として創造することが求められています。しかし、これからの「創造的仕事を創造する社会」においては、そうした「複合した価値を創造する」という仕事を、さらに、創造していく社会になるということになります。

 ややこしいかも知れませんが、様々な「複合した価値」の間にある「目的関係性、因果関係性、相関性」で結びつけて、そこから、魅力あるストーリーを描き出し、根底に潜む新たな普遍的な意味をニーズとして導き出し、例えば、新たなプラットフォームとか、新たなビジネス・エコシステムとかを創り出していく社会をイメージした未来像です。これこそがモデル化です。

 「創造的仕事を創造する社会」は、まさに、モデルの優位性と社会への影響力を競う社会なのです。

大量生産、大量販売、大量消費、大量廃棄の発想を持たない

 どんなに利便性に優れていても、どんなにコスパが良くても、資源の無駄遣い、廃棄を前提とした製品、廃棄した製品が環境を破壊するというのでは、モデル化の方向性として価値はありません。

 自分のアイデンティティを実現できるかどうかが商品を購入する上での選択基準である今日にあって、「大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の発想で作られた画一的な製品は、安価であるということしか市場価値はありません。

 「たくさん作って、どんどん消費して、要らなくなったら捨てて、新しいものに買い換えてもらう」という、社会全体としては無駄を創り出すという発想を断つことが肝心です。

製品の競争戦略という論理の正当性を捨て去る

 競争原理に正当性があるという訳ではありません。「時代が求めていること、社会が求めていること、市場が求めていること、顧客が実現しようとしている生きていく目的と結びついた複合した価値」の視点に立てば、競争原理は経済理論の話しであって、公平な社会として語れる原理ではありません。

 「目的関係性、因果関係性、相関性」を魅力あるストーリーとして表現したモデルの成功は、ひとえに、ストーリーを描き出し、価値のあるモデルを創り出せるかにかかっています。そうした能力は、これからの時代にとっての優位性であり、社会に影響力を持つ源泉となります。

 製品の競争戦略は、無限の蟻地獄のようなものです。人間の欲望は底なしです。あれば何でも手に入れて所有しようとします。これは所有権があって成り立つ論理ですが、誰もが公平に人権(権利)を所有することにこそ普遍性があります。製品の競争戦略の論理を頭の中から捨て去ることが肝要です。

変化に適応しなければという呪縛から離れて変化を生み出すという発想に転換する

 大量生産、大量販売、大量消費とか、製品の競争戦略とか、どうしても、市場で売れるものを次々に開発して、少しでも早く市場に投入しなければという強迫観念に囚われてしまいます。市場や家庭はもので溢れ、メディアやネットワークは広告で溢れています。映えを目指して人々はSNSにどんどん映像を流し込んでいます。事業者は、そこに新たな変化を読み取ろうとし、映えに便乗した商品をデザインして売り出そうとします。映えの鮮度があるうちが勝負で、移ろう流行り廃れに乗り遅れないように、短命の商品開発に明け暮れます。

 「創造的仕事を創造する」とは「変化を生み出す」ということです。その根っこは、社会の大きな趨勢を読み取りつつも、また、社会を俯瞰しつつも、未だ起きていないことを生み出すことから始めようという発想です。決して「変化に適応する」ことではありません。

 「変化を生み出すという優位性」を持った企業は、短命の商品開発に明け暮れて無駄なエネルギーを費やすという必要はありません。そうなるためには、まず、変化に適応しなければという呪縛から逃れなければなりません。

ただ単に「創造的」であったことが引き起こしてきたこと

 経済にはトリクルダウンという理想があります。富裕層が儲かれば、より一層お金を使うよになり、それが貧困層にも回りまわって、社会全体を豊かにするというものです。そして、イノベーションが次々に起こされてきました。しかし、現実には、富裕層の人たちは儲かる一方で、貧困層の人たちの生活は改善されないまま取り残されてしまっているという事態が起きています。

 近代化は効率を追求することで、私たちの暮らし方を便利なものにしてくれました。しかし、その反面、地球からあらゆる資源を搾り取り、自然環境を破壊してきました。

 「大量生産、大量販売、大量消費、大量廃棄」「製品の競争戦略という論理」「変化に適応」は、これまでの経済成長を支えてきた根幹にある考え方です。もちろん、経済成長は大事なことです。しかし、その根幹にある考え方をもって社会全体が豊かになるかというと、短絡的には結びつきません。

「創造的仕事を創造する社会」は持続可能な社会の発展を目指していく

 これからの時代の戦略は、そもそも論として、「時代が求めていること、社会が求めていること、市場が求めていること、顧客が実現しようとしている生きていく目的と結びついた複合した価値」を実現するものでなければなりません。

 「時代が求めていること、社会が求めていること、市場が求めていること、顧客が求めている生きていく目的と結びついた複合した価値」と「目的関係性、因果関係性、相関性を魅力あるストーリーとして表現した価値」の追求は、持続可能な社会の発展の追求とも等価であり、サステナビリティ社会の実現化にも結びついていきます。

 この戦略論は、単に、製品の競争戦略ではなく、複合的な価値の創造戦略でもなく、サステナビリティ社会の基盤となるモデルの優位性と社会への影響力を構築していく組織戦略なのです。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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