「モデル」は、経験的直感では、模範(モデルケース)、模型(例えばプラスチックモデル)、写真の被写体、絵画や彫刻の対象、ファッションモデル、新型車(ニューモデル)などをイメージすることができます。ここでは「事象を構成する要素の目的関係性、因果関係性、相関性などを使って定式化して説明するもの」と定義しておきます。
モデル化とは
この意味でのモデル化は、私たちの日常生活の中で常に行われています。例えば、東京から大阪にいくためのモデルは、通常通りであれば、「新幹線のチケットを買って、発車予定時刻までにその電車に乗って、東京を発車した後は目的地の新大阪に到着するのを待てばよい」という定型的なものです。先日、東海道新幹線が終日運休となりましたが、会議などの予定時刻に間に合うためには、どうやっったら新大阪に辿り着けるかを急いで新たなモデルを構築して、具体的な計画(仮説)を立てて、駅員などに尋ねて確認して、行動することになります。 逆に、どうなるか見通しがたたないから、四の五の言わず、まずは行けるところまで行ってみて、状況に合わせて行動すればよいと考えるかも知れません。それはそれで、その人の成功体験に基づいた行動モデルとも言えます。 一方、思考停止状態になって、どうしたらよいか途方に暮れてしまうかも知れません。それはモデル化ができない状態です。
企業経営にしても、同様です。新しい経営環境に、限られた時間の中で、どう行動したらよいかモデル化しなければなりません。個々人の仕事の進め方についても、同様です。新人の間は、どう進めたらよいか分からないので、先輩に聞くなり、試行錯誤するなりして、自分なりの仕事の進め方のモデルを構築しなければなりません。これらの場合、思考停止していては、業務が止まってしまいます。
真のコミュニケーションとは「お互いが思考したモデルをすり合わせること」
ニクラス・ルーマンは、組織システムの主要な構成要素はコミュニケーションであり、コミュニケーションシステムは相互に前提として循環的に結びついている決定の連鎖(情報・伝達・理解の連鎖)である説いています(#1)。
筆者が、このコラムで主張したいのは「理解してどうするかまでを考えなければならない」ということです。理解してもどうしたらよいかを考えなければ意味がありません。この「どうするか」はモデル化のことです。上司と部下、同僚と同僚、部門間の関係者、同じエコシステムの中で活動している人たちの間で、お互いが思考したモデルのすり合わせすることこそが決定の連鎖であり、コミュニケーションこそがなのです。
みんなが自分自身でモデル化しなければコミュニケーションは成り立たない
「自分でモデル化できていますか?」という本コラムの問いかけは、組織が円滑に運営して目的を果たしていく(機能していく)ためには、いくら知識があってもそれだけでは駄目で、知識や経験に基づいて、個々人が自分の立ち位置で最良と主張できるモデルを構築して、それらをすり合わせていくことが必要であると申し上げたいからです。たとえ、未知の環境にあっても、思考停止せず、まずは、モデル化して試行錯誤することによって挑んでいかなければならないのです。
モデルをベースとしたコミュニケーションによってイノベーションを巻き起こし優位性を育んでいく
自分でモデル化しなければ、変化を生み出すことも、イノベーションを起こすことも、企業の存在意義を実現することも、企業価値を創造することもできません。定型業務を毎日つつがなくこなしているだけでは価値は生まれません。常に、関係する誰もが、社会の発展、企業の価値創造、顧客の満足、現場の働く環境改善のためにモデル化してすり合わせしてブラッシュアップさせて蓄積してこそ、希少価値の優位性は生まれるのです。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
- 佐藤俊樹、『社会学の方法:その歴史と構造 (叢書・現代社会学 5)』,ミネルヴァ書房, 2011.9.30