地球温暖化に伴う気候変動の影響は、一部に反対する人はいるものの、多くの人たちが実感していることと言えるでしょう。そして、この問題に取り組んでいなければ、その企業は、投資家や株主からリスクがあるとみなされます。
そこで、現実的に、多くの企業は、レピュテーションリスクを回避するとともにブランディングを目的として、既存の事業について、有価証券報告書で対処すべき経営課題を開示し(主に、財務上のリスク)、および、サステナビリティレポートで、環境、社会、ガバナンス上のリスクを開示した上で、マテリアリティ(経営上の重要課題)を特定し、経営戦略と整合させた取り組みを開示しています。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD “Task Force on Climate-related Financial Disclosures” )は、気候変動関連リスク、及び、機会に関して推奨する開示項目を提言しています。具体的に、リスクとしては、政策と法規制の動向、技術動向(技術革新の動向)、市場動向、評判(レピュテーション)を挙げて、それが急性的リスクか慢性的リスクかを分類して開示することが求められています。(#1 を参考にして記載しています)
ところで、この「気候変動関連リスク、及び、機会」は、『企業にとってのリスク』は、裏を返せば『企業にとってのビジネスチャンス』にもなりうると言っている訳ですが、これは、奇妙な論理展開の仕方でもあります。なぜなら、リスクから機会を導き出すというのは、順序が逆だからです。前回の当コラム(#258 「本当は、私は、一体、何をしたいのだろう」 マイナス思考を取り込む)でも示したように、マイナス思考が先にはありえません。もっとも、「既存事業⇒リスク(マイナス思考)⇒機会」というであると言えなくもありませんが。
とは言え、このような既存事業に関わるリスクを前提とした論理では、社会変革(ソーシャル・トランスフォーメーション)を巻き起こす破壊的イノベーションは生まれにくいと考えられます。そこで、その解決方法として、経営戦略と整合させたに取り組み(顕在機能)にマイナス思考を取り込んで同等の価値を実現しうる解決方法(潜在機能)を導き出す、第二段階のフェーズが必要になります。
潜在機能は、言うまでもなく、社会の中に潜在しているニーズを実現するものであり、社会変革を巻き起こす破壊的イノベーションにつながりうるものです。こうした思考過程こそが、地球温暖化問題の解決に向けて、日本企業に求められていることなのです。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
- KPMGサステナビリティバリューサービス・ジャパン、『TCFD開示の実務ガイドブック -気候変動リスクをどう伝えるか-』、中央経済社、2022.4.20