#258 「本当は、私は、一体、何をしたいのだろう」 マイナス思考を取り込む

 前回の当コラム(#257 「本当は、私は、一体、何をしたいのだろう」 心の扉を開ける)で、ゲオルク・ジンメルの『人間は、事物を結合する存在であり、同時にまた、つねに分離しないではいられない存在であり、かつまた分離することなしには結合することのできない存在だ。』という言葉を引用しました(ジンメル 1909 #1 p.100)。

 自分を自分が作った殻に閉じ込める(分離)しないではいられない存在である私たちは、新たな状況(周囲の環境変化)や、他者の意見に対して、反論しないではいられない存在でもあります。認知心理学の言葉を使えば、例えば、正常性バイアス、現在バイアス、現状維持バイアスなどの心理が心の奥底で無意識に働いているのかも知れません。いずれにしても、この時に生じるのは、マイナス思考によって駆動される否定的な論理です。

 ここで、気に留めておかなければならないことがあります。それは、自己否定や他者否定といった疎外され状態態のままでは「心の扉」を開くことはできないということです。だからこそ、マインドフルネスでは、マイナス思考を抑制しなければならないと主張しています。

 一方、企業活動においては、様々な葛藤(コンフリクト)が生じます。一つの考え方に対して異なる考え方(反論、否定的な論理)は必ず存在しますし、それは、日常的なことです。組織の中で生じるマイナス思考を排除することはできません。抑制するというのは変な話しです。

 むしろ、人々が組織の中でつながり、すなわち、結合するためには、マイナス思考を取り込むことが必要と言えます。一つの考え方に反論する否定的な考え方があることは大事なことで、個々に分離した考え方を結合する新たな考え方を創り出す営み、心の扉を開くことで、「本当は、私は、一体、何をしたいのだろう」を見つけることができるのではないでしょうか。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

1.ゲオルク・ジンメル著、北川東子編訳,鈴木直訳、『ジンメル・コレクション 』、ちくま学芸文庫、筑摩書房、 1999.1.12

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