最近は、ビッグデータという言葉が流行っている。また、ビッグデータに限らず、データ分析のスキルを持った人の職業をデータサイエンティストと呼ばれている。しかし、データそのものは意味を持たないし、データが何かを積極的に語りかけてくる訳でもない。むしろ、人間が、仮説を立てて、データでその仮説を検証するというのが正しい。当然ながら、まずは、売上などを継続的に分析して、期間比、推移、内訳(の比率)から “事象” を捉えて、何故そうした事象が起きたか原因を仮説し検証し、今後の見通しなどを立てる。そして何より大事なことは、単に“事象”を捉えるにとどまらず、深層に潜む動きを見透して “状況の変化を捉える”、“変化の兆しを捉える”、“変化を興す” という一連のプロセスを他者に魁けて起動するに至らしめることである。このプロセスを起動させるには、事象を分析するための仮説力、データ分析の技術力、データ分析結果の解釈力を超越したアブダクションができる能力、洞察力が必要である。
この能力は誰にも備わっているものではないが、下記を準備することにより、一定の結論を出すことは可能である。
・分析を行うための道具立て
・辿るべき分析の道筋
・思考のインフラとしてのナレッジベース(リポジトリ)
ここで、私は、分析のための道具立てを、IAF “Insight Analysis Formula”、これらを活用する定石としての手順を、戦略的実施手順(Strategic Enforcement Procedure)と名付けている。
IAF “Insight Analysis Formula”、戦略的実施手順(Strategic Enforcement Procedure)のイメージは以下に示す通りである。
IAF “Insight Analysis Formula”では全体を「Impact to social(社会に対する貢献度)」「Monetary(コストパフォーマンス)」「Request(顧客訴求度)」「Time(緊急度(優先度))」の視点から総合的なバランスで捉える。社会的にインパクトがあっても売上につながらないとかコストがかかるということになれば実施は難しい。しかし、市場や顧客に対する訴求度が高く緊急度(時勢的・政策的な優先度)が高ければ何らかの施策を打とうということになる。
「Request(顧客訴求度)」は、Static Analysis(静的な分析)により分析を行う。この分析の目的は、商品 Px のニーズイメージに込めた供給者の想い(デザインコンセプト)、顧客 Cx(想定顧客のプロフィールやライフスタイル)の整合化を図ることである。供給者サイドから見れば、マスマーケティングの慣習により、顧客を客層化して分類し標的顧客を定め、エリアで絞っていくことになる。一方、顧客には様々な趣向があり消費者心理が働くことから、これら要素を要因として相関性と購買につながる因子をあぶり出す。そして、その得られた因子を、客層やエリア別に紐づて整合化を図っていく。上図では、Px-Cx が整合した領域を “Fit” 、対象外の領域を “Gap” と記している。問題は境界線上にある商品と顧客の整合化である。供給者サイドで考えれば、サービス付加価値をつけたり、サービス価格で対応するか標的顧客から除外することになる。一方、顧客サイドの視点から考えると、品揃えの多様化、カスタマイズして個々の顧客ニーズにフィットさせて、何とかして満足してもらい、顧客開拓・囲い込みにつなげたいということになる。
「Time(緊急度(優先度))」は、Dynamic Analysis (動的な分析)により分析を行う。この分析の目的は、時間経過に伴う変化への整合化である。尚、ムーブメントやトレンドが変われば、緊急度も優先度も変わることもあることにも留意しておく必要がある。上図では、時点t1から時点t2の間の変化の状況、変化の傾向(例えば前期比等、図では信号表示)を示している。Static Analysis(静的な分析)で分析した Px-Cx について、状況の変化(例えば、売上の減少等)があれば、その要因を分析しなければならない。社会は大きな出来事で一変し、文化も変わる。長い時間をかけて徐々に変容していくものである。こうしたムーブメントの変化を背景にトレンドも変わる。顧客もムーブメントに伴い知らずのうちに価値観が変化し、トレンドへの関心度に応じて趣向(選択肢、選択方法)も変化する。商品もムーブメントやトレンドに志向して柔軟に対応していれば顧客の変化に乗り遅れないし、魁けになることもありうる。尚、顧客満足度調査により、ムーブメントやトレンドの変化により顧客の趣向があり消費者心理の変化を捉えてビジネスの全体系に対してフィードバックしていくことも重要なプロセスである。
この中で、因子やトレンドの抽出が、データアナリストにとっての壁となって立ちはだかる。そこで、思考のインフラが提供されることが不可欠となるが、ナレッジベース(リポジトリ)としての “Repository for Sustainable Innovations ”(サステナブル・イノベーションのためのリポジトリ)の存在が威力を発揮することになる(*1)。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一
(*1) #23 見透せる化 (11) 人を中心に据えた思考を実現するリポジトリ