新型コロナウイルスの感染拡大(パンデミック)によって人々の行動は、非接触型の行動様式へと変容している。パンデミックは一時的な事象かもしれないが、それが世界中を駆け巡り、やがては第2波、第3波と繰り返される可能性がある。また、パンデミックはグローバル化の深化とともに頻発化し、21世紀になって以降の20年の間に4回(SARS、MARS、新型インフルエンザ、新型コロナウイルス)も繰り返されており、非接触型の生活様式はニューノーマル(新常態)として定着していかざるを得ないのかも知れない。
近代化を推し進めた20世紀の世界において、人の働き方は、職場に人を集めて一定時間拘束する労働集約型であることが当たり前であった。労働集約型の職場では、密閉された空間に人々を集めて(密集させられ)、相互につながりながら(密接して)働かざるを得なかった。しかし、21世紀の今日、多くの仕事は通信でつながり自動化されている。意思疎通のためには対面である必要もあるが、カメラの高精細化と5G等の通信技術の進化、VRの普及などで、やがては、対面である必要性が少なくなってくるかも知れず、それに伴い、人々の働き方も場所や時間に拘束されない働き方(ライフスタイル)が普通になってくるかも知れない。無人化技術はそうした非接触化する社会、新たな働き方が浸透する社会にあって、非接触技術、遠隔技術を基盤として実現化される技術である。
現時点で報道等により示されている無人化に関連する製品分野としては、無人店舗、無人工場(FA:Factory Automation)、無人倉庫(自走車)、無人運転、無人輸送、無人配送、無人給仕、無人消毒、無人コンシェルジェ、無人コールセンター、RPA(Robotic Process Automation)等を挙げることができる。上述のように、これらを実現する要素技術として遠隔技術、無接触技術が必要になるが、さらに、基本技術として、ローカル5GやIoT技術(センサー技術、ウェアラブルコンピューティング技術)、プライバシーの保護技術、セキュリティ技術、画像認識技術、人工知能技術、ロボティクスに関わる技術の進歩と普及が必要となる。また、個人情報保護や無人運転技術の進展等については併行して法規制の変革も必要となる。さらに、無人化の普及と生活への浸透に伴い通信量やデータ量が増大化すると考えられる。クラウドコンピューティングによるデータの集中管理化とともにデータセンターの拡充も必要となり、同時に、電力供給の問題も顕在化していくことになる。そうしたビジネスの売上や利益はどこの国で計上されるべきか、すなわち、法人税の課税徴収権はどの国にあるのかも明確にしていかなければならない。
無人化にはシステム間のシームレスな連携が必要である。コードの統一やシステム間の通信規約の統一も必要であり、その間に人間が介さなければならないとすれば、そこに負荷が集中するだけでなく、エラーの原因ともなり、かつ、滞留して貯められたデータの改竄や情報漏洩の問題も生じてくる。使用者側にとっても、システムごとに使い勝手が異なっていたり、いちいち夫々に異なるアプリをダウンロードしてデータを変換しなければ使えなかったりということになれば、それ自体が普及を阻害する要因となってしまう。さらには、新たな技術に対して利用者は、使い慣れた昔ながらの技術に固執する傾向もあり、不得手感や拒否感を抱いたりするものである。逆に、利用者の不慣れを悪用した犯罪を企てるものも現れかねない。情報機器やシステムを知らなくても使える仕組みや犯罪防止の仕組みを如何に組み込むかが、無人化技術の浸透には不可欠である。
筋の良い技術革新は新たなディスラプション(社会変革を巻き興すイノベーション)を生み出すきっかけともなる。無人経済という言葉もあるが、無人化技術は経済成長や社会発展の在り様を変えるものである。20世紀の近代化は富による繁栄を目指して大量生産・大量消費社会を生み出したが、21世紀のニューノーマル(新常態)は多様で包摂的な豊かさを求める社会になっていく。無人化技術が向かう方向は、近代化でも富による繁栄でもなく、多様で包摂的な豊かさを実現するものへと向かったものでなければならない。無人化技術は人々のライフスタイルやワークスタイルの変革をも巻き興すものであり、そこに新たな仕事が生み出されていく。それまでの仕事がなくなってしまうかも知れないが、人々を職場に集めて時間を拘束する労働の対価(コスト)で雇うのではなく、社会的価値を創造する自律的に仕事をする人々の新たな働き方を提供する仕組みとなっていかなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一