日本において海洋汚染問題として日々の暮らしの中で多くの人が廃棄プラスチックに心を留めるようになったのは2018年6月のG7首脳会議で示された「海洋プラスチック憲章」以降であろうか。元々、日本人は、ペットボトルの分別収集の習慣が根付いていたので、マイクロプラスチックが海洋汚染を引き起こして海洋生物の生態系を破壊しているという問題に対する意識は低かった。しかし、徐々にその問題に対する認識も広がり、例えば、スーパーなどでのレジ袋廃止、トートバッグの持参が浸透してきた。
今、世界の投資はESG(Environment、Social、Governance)投資に向っている。ESG(Environment、Social、Governance)投資は、元々は、企業が自然環境、社会、ガバナンスに関わる不祥事を起こしたときに株主や投資家に被害を及ぼしかねないという危惧から、リスクマネジメントの意味合いを持って捉えられていた。しかし、人々の自然環境や社会に対する関心が高まり、企業や投資家も、むしろ、ESGに積極的に取り組むことによって企業価値を高めようというのが最近のトレンドとなってきたのである。
今では、新型コロナウイルスの感染拡大(パンデミック)によって人々の行動は、非接触型の行動様式へと変容している。一方、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にしても、ESGにしても、広く感染症等への対応に言及したものであり、新型コロナウイルスの世界的感染拡大(パンデミック)が起きた世界を想定していた訳ではない。アフターコロナ、ウイズコロナといった言葉が広がりを見せているが、パンデミックが収束(終息)していく世界のニューノーマル(新常態)を前提としてSDGs、ESGの方向性を改めて考え直していくことが必要である。
実際、日本では、外出自粛生活により家庭ごみが増えたと言われている。外出自粛で家庭内の不要物を処分するなどして家庭ごみが増えたとも言われるが、食品スーパーの売上が増加しており、スーパーなどでのレジ袋の消費量がどのように変化しているかは明らかにされてはいないが、もし、消費量が増加したのであれば、感染拡大防止、医療崩壊の防止策としての外出自粛という政策が、環境問題としては負の方向に作用したことになる。
日本における緊急事態宣言下での外出自粛、企業の休業要請といった措置は一時的なものかも知れない。しかし、パンデミックはこれから秋冬を迎える南米を中心に拡大傾向にあり、北半球が秋冬になる半年後には、日本にも第2波の感染拡大に見舞われるのではないかと危惧されている。パンデミックに襲われた現世界では、我々の日常生活においても、企業経営においても、政府の政策においても、ニューノーマル(新常態)の下で何をしなければならないかを付加したSDGs、ESGへの取り組みを考えていかなければならない。
パンデミックに対する外出自粛、企業の休業要請によって一時的にせよ、自分が取り組んできた仕事を休止せざるを得なくなる(あるいは、廃業や破綻せざるを得ない状況に追い込まれる)という事態に直面してみると、この大事にしてきた自分の仕事は社会に役立ってきたという自負とともに、なんとしても失いたくない、守り抜いていかなければならないという思いに駆られたのではないだろうか。SDGsが世界の共通認識であり、ESGが世界の投資や企業行動の基準になりつつある。パンデミック収束(終息)後の世界では、ニューノーマル(新常態)の視点で再構築したSDGs、ESGを共有基盤として社会的価値創造のネットワークを築いて、「自分の仕事は社会に役立っているという自負」という「私の思い」と「社会発展」を融合させていかなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一