特許、商標、著作権といった知的財産が適正に保護されなければビジネスは成り立たない。
日本にしても、戦後の産業の黎明期は模倣から始まったと言える。今、中国企業による模倣が問題となっているが、経済発展の初期に先を急ごうとすれば模倣しかない。一方、多大な時間と経営資源を投じて先行開発した企業にとっては、後発企業に模倣されて、経営資源を投入することなくすぐに追いつかれてしまうのでは堪ったものではない。
中国等の新興国においても、経済が成長し労働コストが高くなっていく宿命を抱えている。そもそも、模倣によるビジネスはコモディティビジネスであり、常に、低価格化競争にさらされて疲弊し、ローエンドの破壊的イノベーション戦略を続けても、その先にあるシナリオは破綻しかない。そしてそれは、大量生産・大量販売といった20世紀型の産業モデルであり、経済成長とともにそのモデルは通用しなくなる。増してや、グローバル規模でシェアリングエコノミーへの動きが広がりつつあり、大量消費も見込まれなくなっていく。
未来社会の持続的な発展に向けて、すなわち、未来社会にとっての価値を創造していく上では、模倣されてすぐにコモディティ化する商品に拘らず、模倣しようにも模倣できないビジネスを生み出すことの方が重要であり、生き残りをかけた競争に勝ち残っていく確率も高くなる。それは、組織の中に蓄積し内在された知(知識ではない)によってしか実現できないものである。
本当の意味での知的財産の保護というものは、権利化できる表層的な知識に対するものではなく、組織の中に蓄積し内在された知によってしか実現できないものの保護であり、そうした知を持つ人材が流出していかない様にすることが本質であろう。
これからの社会構造においては、雇用主である企業よりも知を持った個の方が強くなっていく。シェアリングエコノミーが進展していく時代に、個は複数の企業の仕事をし、個は自立して小さな企業を起こし、個はフリーランスという立場で知を企業に提供していく。企業はそうした個が知を提供するビジネスのプラットフォームになり、プラットフォームとして働く場や設備を提供することで価値を形成していく。この企業の価値の形成の能力(ノウハウ)、個の知を守ることこそがこれからの社会における知的財産の保護と言えよう。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一