日本がものづくりの先進国として世界をリードしていく分野は、微細な加工技術を持つ匠の技とナノテクノロジーを組み合わせた相乗的な技術であろう。
日本は、匠の技の素養をもって、半導体集積技術で世界をリードしてきたが、今や、この産業分野はローエンドの漸進的イノベーションの分野と化し、巨額の設備投資を必要とされる中で採算性のとれる産業とは言えなくなってきた。ムーアの法則が限界に達してきており、シリコンの時代も終焉を迎えつつある。ポストシリコンの時代の日本経済を支えることのできる日本人の得意技を活かせる中核産業を見つけていかなければならない。
ナノテクノロジーを医療分野に活用する技術も進歩してきた。ただ、医療分野に新技術を導入し普及させていくためには、巨額の投資と治験に関わる長い時間を必要とする。この分野を中核産業として育てていくとしても、巨額の研究開発資金を投入できる国が必然的に先行し、当初から問題児「Question Mark)の戦略をとらざるを得なくなってしまう。
未来社会の持続可能な発展に資する産業を育成するという目的に関して言うなら、分子工学や素材創造の分野は最も適している。自然環境を破壊しないでも獲得できる材料、廃棄しても生態系を破壊しない材料の開発は理想的であろう。石油に由来しない製品を再生可能な低コストの素材加工技術で作れたら、世界の産業構造、経済構造も大きく転換する筈である。
世界は今、SDGsに向かって動いている。IoTやロボットや人工知能技術に人の目が集まっているが、日本の経済発展を担っていく産業は知識集約型産業だけでなく、バイオテクノロジー分野の高度な技術が支える新市場開拓型イノベーションであろう。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一