日本は財政破綻の危機にある。プライマリバランスは悪化の一途を辿っている。人口減少社会となりその構成も典型的な棺型となっている。その結果、社会保障費の財政負担は拡大するばかりである。貯蓄率は高いが、多くの人が貯蓄を切り崩しながら生きている。そして、何よりも、ここ半世紀ほど経済成長の原動力となる破壊的イノベーションを興すことができていない。そして、高度経済成長を支えた多くの事業は世界と比べて遅れをとっている。
土木事業等への公共投資が経済政策として採用された時代もあったが、国債や地方債等に依存したそうした投資が、結果的にプライマリバランスの悪化を生み、財政破綻の危機を生み出している。国家的なイベントも経済刺激策となるが、その経済的負担を負うことは重荷である。土木事業や国家的イベントで建設した施設には維持費がかかり、耐用年数が経過すれば建て直さなければならない。人口が減少する中で大規模な施設の建設費や維持費を回収できるかという不安もある。
高度経済成長期には、通産省や大蔵省が音頭をとって護送船団方式により産業の育成を図った。米国との貿易摩擦の結果、護送船団方式は消滅した。現在では、国家戦略として国際的に競争力のある事業を育てようとしているが、医療分野の一部の事例を除いて、多くは未来社会を創造するという構想力で海外に後れをとっている。
東京などへの都市圏への経済の一極集中が進む中で、ビジネスチャンスの少ない、あるいは、ビジネス規模の小さい地方の産業を守り育成していくためには、資金的に長期益な支援も必要となる。都市にあっても、大企業が海外移転していくことで地場産業のビジネスチャンスは減少していく。新事業を掘り起こし自らの力で販路を開拓していくには体力が必要であり、ここにも資金的に長期益な支援も必要である。しかし、財政破綻の危機が迫ってくる中で、公的な資金的な支援に頼り続けていくことは難しくなっていく。
日本人には、米国人ほどの金持ちはいない。民間人による夢のある事業への気前のいい投資はありえない。また、海外のハゲタカファンドに頼ってしまっても、産業としての育成にはつながらない。クラウドファンディングにしても、単発の事業には向くが、産業を育成するほどにはならなない。大企業による投資の仕組は、大企業の思惑に揺り動かされる。銀行の融資に頼るといっても、不良債権のリスクテイクを恐れるあまり、担保の有無に固執してしまう。
公共投資に頼らない社会になるには、結局のところ、企業自身が自立して資金を回転させながら大きく育っていかなければならない。そのためには、企業が独自の力でイノベーションを巻き興し、かつ、巻き興したイノベーションが新たなイノベーションを生み出す好循環の道筋(イノベーション戦略)を描き出せていなければならない。
これからの日本が成り立っていくには、個々の企業が、こうした新たな収益基盤を生み出すイノベーションを興せる『未来社会に向けた構想力』を育成していくこと、その前提として、構想力のある多様な人材が活躍しうる組織を構築していく能力を身に着けていくことできるようにしていくことが求められている。これは、働き方改革や生産性向上だけの議論では実現しえない。知能の高いエリートばかり集めても創造性に富む世の中が創れるとは限らない。多様な価値観や経験知を持つ人たちが誰でも主体性を持って参加できる草の根活動によって創造性を磨き上げていく社会にしていくことが望まれる。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一