#165 超成熟社会(ものの充足より心を満たすストーリー)の社会になる

 高度経済成長期には、画一品であれ、とにかく生活に必要な製品が欲しい時代だった。家庭にも店舗にも商品が溢れ、新機軸の製品もすぐに競合事業者が追随してまたたくまに需要が満たされてしまうようになると、経済成長は緩やかになり成熟経済期へと入っていく。経済の成熟化は同時に社会の成熟化にもつながり、人々は利便性より個性を重視し多様な生き方を模索する様になった。

 多様な生き方というニーズを満たすには、企業側としても、それはこんな生き方だろうというストーリーを提案し、ストーリー性に訴求したマーケティング手法を編み出していかなければならなくなった。「コトの消費」と言われて久しいが、それは、嬉しいコト、楽しいコト、幸せを感じるコト、至宝の時間を過ごせるコト、即ち、モノではなく心を満たす出来事を演出することに他ならない。

 日本人は、節電や節水、ゴミの分別収集の習慣、リサイクルへの意識の高まりから、モノを大量に消費して使い捨てるのではなく、資源を大事にする「もったいない」という感覚を社会の中で培ってきた。阪神・淡路大震災を機にボランティア活動に参加する人も増えた。環境問題や貧困問題などの社会問題に心を砕いて、社会的課題の解決に関わることに自己の存在意義を追求する様にもなった。こうした変化は、「コトの消費」から「自己の存在目的の追求」へと人々の意識が高まってきたことを意味する。

 契約に基づく個人主義が染みついている海外の人たちと比べ、日本人には、他者に対するきめ細かい心遣いやお互い様の気持ちで献身的に行動する習慣が身に染みついている。「情けは人のためならず」(巡りめぐって自分に返ってくる)という故事もあるが、お互い様の気持ちには、今は損しても後で得をしようという下心があるというよりも、平等に苦労するという思惑がある。マズローの「自己実現の欲求」は自己の欲求を満たそうという心理であり自我を捨てた心境ではないが、「自己超越の欲求」は最上位の欲求とされ、トランスパーソナル心理学で言うところの「ビジョンロジック」となると日本人の心情として近しさを感じる。

 超成熟社会の社会は、日本人的な、他者に対するきめ細かい心遣いやお互い様の気持ちで献身的に行動する社会、自己の存在目的を追求していく社会(あるいは、「自己超越の欲求」を満たす「ビジョンロジック」によって成り立っていく社会)である。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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