1980年代頃からクオリティオブライフの考え方が広がり始めた。一方、2011年からの人口減少社会化と生産年齢人口の総人口における比率の低下にともない、経済成長優先の目的で、女性や高齢者を労働力としていくために労働環境の整備、すなわち、働き方改革が推進される様になり、時間や場所に拘束されない働き方の導入など、仕事と生活を両立させようとワークライフバランスが盛んに喧伝されるようになった。
人口が増加していた高度経済成長期の時代には、寿退社や出産を機にした退社、定年退職が普通と思われていた。男性は猛烈人間として仕事人間化し、女性は専業主婦となり、退職後は悠々自適というのがライフスタイルとして多くの人の脳裏にあったと思われる。それはまた、画一的な人生を送ることに安心感を得ていた当時の人生観の反映でもあったが、工業化による近代化がひと段落してきた20世紀末頃から一人ひとりの個性が重視される様になり、人々は多様性を受容した社会を築き始めた。
超高齢社会になり、現在では、高齢者施設に入れない高齢者の自宅介護の負担、特に、老々介護、介護退職した子による介護、高齢者の独居孤独死等が社会問題となっている。家族の介護のために働き盛りの人が働けなくなるよりも、介護と仕事を両立してもらおうという文脈でのワークライフバランスが喧伝される様にもなってきた。また、介護退職した人達も、親の年金と自分で貯めてきた貯金を切り崩しながらの介護生活となり、自分の老後の不安を大きくしながら生きていくしかなく、親が亡くなった時には既に自分も高齢者となって再就職のあてもなくなってしまい、最終的には生活保護に頼らざるを得なくなる。これは、親のいる人なら誰でもが辿る可能性のある人生である。介護のためのワークライフバランスが働く人たちにとってのクオリティオブライフかという疑問もあるが、介護退職をなくすという政策は急務である。
雇用の面での社会保障政策が遅々として進まない中、自分の時間で自分の能力を生かして働こうというフリーランスとしての働き方を選ぶ人も多い。若いころから定期雇用の道を選べずフリーターとして生きてきた人たちも、自立してフリーランスとして生きていく道を歩んでいける様にしていかなければならない。低賃金の非正規労働者を便利に活用してきた企業も人手不足に喘ぐようになり、社内の人的資源だけでは業務を回すことができなくなる。非正規労働者の人口も同様に減っていくとなれば、定型業務はロボットに、労働集約型の作業は外国からの労働者に頼るしかなくなる。専門性の高い知的業務、創造性の高い業務、熟練が必要な業務はフリーランスが担うという役割分担も見えてくる。
今でこそ、雇用の主従(雇用者と被雇用者)関係の強い立場から副業を認めていこうという流れが起きつつあるが、やがては、個人(フリーランサー)の立場が強くなり、個人が複業する仕事の一つとしてある企業の仕事があるという世の中にもなっていく。雇用に縛られる生き方は、実は、拘束される不自由な生き方である。ポストワークライフ社会は、個人がクオリティオブライフを追求できる生き方、自分の働きやすい条件で複数の仕事に就ける生き方の社会である。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一