未来社会における価値を創造していくためにはビジョンが必要である。そして、ビジョンがなければイノベーションを興していくことはできない。
どの様なビジョンを描きうるかは個人の資質によるところも大きいが、社会がどの様な発展段階にあるかということも大きく影響する。例えば、明治維新で社会は大きく変わったが、あるいは、高度経済成長期に暮らしは良くなったが、だからといって、21世紀の現在にあるような社会的背景の下で描けるビジョンを想像しえたかというと、大多数の人にとってそれは無理な話しであったろう。
社会的価値とは何か。それは、経済の状況や社会の安定の状況によって異なってくる。社会の中に貧困が深く広がっている状況においては、経済状況の改善に資する取り組みが社会的価値と言えよう。政情不安の状況では、人々は安心して暮らすことができない。まずは、政治の安定を求めることが最優先の課題となる。
しかし、経済が十分に成長して暮らしを便利にするものが社会に行き渡り、経済的格差問題も社会システムの中で解決できてくると、また、自由で民主的な社会システムが定着してくると、人々の心は落ち着いて寛容な社会を築きはじめ、文化的な豊かさ、知的な成長によって得られる満足感、お互いの個性の交わりによって得られる自己を超越した満足感を求めるようになる。
どの様なビジョンを描きうるかは、因果思考の結論として得られるものではない。今の現実から将来を外挿的に描くことに論理的な合理性が得られても、そこには夢がない。当然のことながら、新市場を開拓するディスラプティブなイノベーションを発想しうるには至らない。
「社会的価値を生産する社会となる」ということは、新しい発想で未来社会に新たな価値を創造していことのできる社会である。そのためには、因果関係による合理性ではなく、未来に夢を描ける社会、未来社会の価値に投資できる社会でなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一