私が就職した頃は高度経済成長期の真っただ中でしたが、当時の社長というのは、その業界のことや技術について一番知っている人であり、人脈も広い人というイメージがありました。それがいつの間にか、経営者となり、株主価値を増やす人、M&Aで企業を大きくする人というイメージに変わりました。
しかし、今や、インターネットを使えば、誰もが社会とつながり、社会にある様々な情報を検索でき、知りたい知識を探索でき、自らも情報や知識の発信者になれるようになりました。経営者だけが広い知識を持っているという認識は誤りであり、今や、具体的に社会的課題に直面している社員の方が、その分野においては現実的な知見をたくさん持っていると考えるべき時代になったとも言えます。
21世紀の今、ポスト・ポストモダン経営という言葉もあり、企業は、利潤の追求ばかりでなく、事業を通して、社会の持続可能な発展に貢献し、また、社会的課題を解決していかなければならない存在に変わってきました。
これからの社長のイメージは、社会の中で人生を生きている一人として、様々な人達の悩みや夢に共感し、そこにある課題を整理して問題を解決し、さらには、こんな社会にしていきたいという夢を叶えていくために、組織としての一体感を醸し出し、そこに働き甲斐を創出していく存在に変わっていくのだと思います。
企業は社会とつながり、社員も社会とつながり、企業と社員は仕事を通してつながるというだけでなく、社会と企業と社員が一体となった存在になっていきます。そして、こうしたことこそが企業の多様性であると言えます。
そうした前提に立つと、社員は社長と同様に、社会の中で自立した存在とならなければなりません。社長と社員の違いは、社長は、社員が共感しうる夢を描ける能力、組織として課題を解決し夢を実現していくぶれない信念、諦めず率先して行動していく能力が必要になります。
目標は目的を達成するためのものであり、目的は自分だけのものでなく、また、自己を実現しさえすればよいというものでもなく、誰もが心の奥底にある“私の存在理由”を満たしてくれるものでなければなりません。
社長も、社員も、“私の存在理由”で共感しうるならば、“つながり”ではなく“絆”で結ばれます。そして、こうした目的で行動できる社長と社員がいる企業と、そうでなく経営者が合理的に率いる企業とでは、創造しうる企業の価値は全く異なるものとなります。
これからの21世紀型の経営モデルは、これまでのポストモダン時代に確立された様々な経営モデルとは全く異なる意識が必要となっていきます。そして、これからの時代の経営革新はこうした意識の変革から進めていかなければなりません。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一