イノベーションの定義は社会的背景により様々に深化してきている。シュンペータによる経済成長論から言えば、新結合により創造的破壊が非連続に起こることが、イノベーションの定義の原点にある。クリステンセンによれば、ディスラクティブイノベーション(日本語では、破壊的イノベーションと訳されてきた)とサステナブルイノベーション(持続的イノベーション)に分類されるという。
イノベーションを巻き興していく実務の立場からすると、イノベーションを興すことと単に新事業を起こすことは異なる。そこには「イノベーションらしさ」というものが思考されていなければならない。この「イノベーションらしさ」とは、①社会システムの進化を伴うこと、②社会的風土の変容を伴うこと、③プラットフォームの進歩につながること、④プロダクトの深化であることと言うことができる。先に記したシュンペータによる定義に基づけば、①②は社会の不連続な進化でイノベーションの社会への普及と浸透、③④は新結合と創造的破壊に関連する。
これらの「イノベーションらしさ」は、更に、詳細に様々な観点から評価されることになるが、新事業のビジネスプランではなくイノベーションプランであるとされる条件を満たしていなければならない。そして、ビジネスプランではなくイノベーションプランを思考するということこそが、経営戦略の本質である。
単なるビジネスプランではなくイノベーションプランを描くには、未来社会の発展を描くということ、すなわち、未来社会における私たちの暮らし方を描き出すストーリーが必要である。しかし、イノベーションプランのストーリーを描くことと、小説のストーリーを描くのと根本的に異なる。イノベーションプランのストーリーは、未来社会において実現していく社会的価値(目的)のもとに、競争戦略的な視点、ゲーム理論とシステムダイナミクスの視点で描きだされなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一