今、量子コンピュータが話題になっている。量子コンピュータのアイデア自体は古いものであり、やっと実現が見えてきた、まさに夢の技術であろう。
しかし、量子コンピュータが私たちの暮らしの、どの様な不便を解消してくれるのだろうか? もちろん、高速演算が必要な用途、例えば、新薬の開発には有効であろうというのは理解できる。IoTの時代に、膨大なデータを分析してマーケティングに活かせることもできよう。そして、一人ひとりの様々な状況の固有のニーズにピッタシのものを提供できる様に、ビジネスモデルを再構築することにも役に立つと想像できる。
シリコンを使った集積回路技術にはムーアの法則というものがあり、やがては限界に到達する。とは言え、この技術がこれまでの社会の発展に寄与した功績は大きい。それは、建物サイズだったコンピュータをカバンやポケットに入れて持ち運べるコンピュータへと進化し、演算速度も桁違いに高速になったことばかりではなく、私たち人類の所作を変えて社会的風土を変容させてきたし、あらゆる分野でのイノベーションを巻き興してきた。 しかし、それは、コンピュータの演算装置としての技術ではなく、ものごとをデジタルで記述する技術、プログラミングという逐次処理をする技術を抽象化し情報を処理する技術として活用しようという、すなわち、様々な不便を解決するために利用していくという発想の転換があったことによる。そして、業務や情報をデジタル化してモデリングするという思考によって実現されてきたのである。
コンピュータと人間の間にある最大の不便は入力の手間である。IoTは、人間が入力しなくても、様々な電子機器に搭載したセンサーが感知した情報をデジタル信号に変換し、遠隔地にあるコンピュータに知らせてくれる仕組みである。しかし、人間が機械であるコンピュータに入力したい情報は思考そのものである。人間の脳は電気信号で動作し、それを脳波として拾ってデジタル信号化すれば、コンピュータ処理が可能であるとも予測されている。人間の脳の動きをそのままコンピュータに転写(ダウンロード)しても良いかという倫理的な視点から解決すべき問題もあるが、モデリング技術としては、集積回路に思考を転写するよりも量子コンピュータに転写した方が、より近いものになると想像できる(モデリング技術も基盤となる技術にともなって進化していく筈である)。
シリコンによる集積回路技術の進歩と同様に小型化し高速化していくことで色々な問題を解決してきた様に、量子コンピュータの動作原理を抽象化しモデリング技術を開発することにより、人間はどんな問題を解決しようとし、どんな目的を実現しようとしていくのか、それを意図していくのがイノベーショナル・エコノミーの役割である。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一