これまで、本コラムでは、「経営において論理思考が正しく機能するための条件(#95)」において論理思考の限界にも言及し、「目的思考とメタ思考(#100)」「問題認識に潜む真の問題を認識する(#96)」「メタファーとデフォルメ(#1101)」について記してきた。
それでは、ビジョンを描いていくためには、どんな思考方法が必要かというと、それは「アウフヘーベン」ということになる。
広辞苑第六版によれば、アウフヘーベンとは、日本語の「止揚」として、『「廃棄」「高めること」「保存すること」の意)ヘーゲルの用語。弁証法的発展では、事象は低い段階の否定を通じて高い段階へ進むが、高い段階のうちに低い段階の実質が保存されること。矛盾する諸契機の発展的統合。揚棄。』と定義されている。
ビジョンを描いていく過程において、当初は正しいと思っていたことでも、思考が浅く奥底にある矛盾や問題点を認識していないことがある。むしろ、そうした矛盾や問題点の存在に気づいて解決していくとこで、より高い理想像に近づいていくことができる。
今、多様性に重要性が認識されている。色々な価値観や考え方の違いを受け容れていくことで、ともすれば一面的にしか捉えられていない思考に、新たなアイデアが注ぎ込まれ、結果的により良いものとなっていく。この考え方の根源には、アウフヘーベンの思考がある。
ここで、大事にしなければならない思考は、違いを受け容れることと、敢えて内在する矛盾や問題点を抱え込んで許容することである。違いを孤絶することにアウフヘーベンは起こりえない。また、矛盾や問題点を許容して解決策を織り込んでいくからこそ、より高い理想へとつながっていくのである。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一