商品のデザインの目的は、利便性や経済性の追求であり、市場において認められた価値を獲得することである。市場に認められた価値が社会に普及し浸透していくことで社会生活の利便性は増し、企業は潤い経済も成長していく。事業を起こす視点からの発想は、この間接的なプロセスが好循環するという仮説のもとに成り立っている。
しかし、社会が成熟し市場も成熟してくると、この好循環の仮説は成り立たなくなる。過剰な機能の商品が社会に出回り、あるいは、低価格競争が繰り広げられるばかりとなってしまう。社会の利便性は限界に達し、経済成長も停滞してしまう。
そこで根本的に、社会の発展にとって何が求められているかを考え直すことが必要となる。製品の生産の仕方から商品の流通の仕方、消費の仕方やリサイクルの仕方に到るまでの社会全体としてのシステムがその対象となる。この社会システムのデザインにおいては、利便性や経済性の追求ばかりでなく、社会発展との相互作用として市場に価値が認められることを意図するようになる。
そもそも、イノベーションは社会の変化を伴う事象である。事業を起こすこととイノベーションを興すこととの違いは、商品のデザインから思考するか、社会システムのデザインから思考するかの発想の違いである。イノベーションに向けては社会システムのデザインという発想への転換が必要である。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一