経営変革を考える時、成功体験の弊害についてしばしば耳にすることがあります。
私にも成功体験があります。世の中の潮流が変わり周りの人達が話す新しい考え方に対して激しく批判をして自説を押し通そうともしていました。この言葉は他の人のことではなく、自分自身のことであったことに、まさに驚愕しました。
結局、私は自ら身を引くこうと悟り、会社を辞しました。もう10年も昔の話しです。
自分の頭と体で学んだことを活かすことは大事なことです。
経験しているからこそ、これなら上手くできる、成功すると、確信を持って言えることもあります。しかし、社会背景が変わり技術が進化すれば、人の求めることや思考の仕方も、行動様式も変わります。経験したことそのままが、新たな成功を生み出すとは限りません。
今は、売上至上主義、利益至上主義の時代です。
そうした風潮では、どんなに知識や知恵を蓄積しようが、売上を上げなければ評価されません。逆を言えば、そういう経営をする企業には、成功した商談の事例、お客様に営業トークする成功事例がたくさん積み上がったとしても、創意工夫し苦労して積み上げた知恵(本当の意味での成功体験)は個人の中に蓄積されるだけで、企業の中には蓄積されません。
そもそも、成功体験と成功事例を勘違いしている経営者もいます。
成功事例がたくさんあるから、これからもビジネスが成功すると思っているのだと思います。お客様から、事例を教えて欲しいと言われたときに、興味がありますよというポーズだけの場合があります。「それは、我が社とは違うし要らないよ」と、断りの口実を提供するだけのことにしかなりません。
私の若い頃を振り返ってみると、先輩やお客様にお叱りを頂きながら必死になって知恵を学んでいました。たくさん失敗し、自分でも創意工夫をしてどうしたら上手くいくか、現実に真摯に向き合っていたとも思います。失敗を積み重ねどう乗り越えていくかこそが、成功体験そのものであり、新しいビジネスを成功に導く源と言えるのです。
最近散見するM&Aで無いものを調達する、人を短期間の非正規雇用で人件費を削減して確保するというだけでは組織の中に知恵が貯まっていく筈もありません。
持続して成長しうる会社かは、成功事例だけでなく、失敗事例も成功体験も蓄積されているかを見れば分かります。巨大企業であっても、洋の東西を問わず、廃れてきている企業にはこの傾向を見て取ることもできます。
売上至上主義、利益至上主義の風潮の中でも、如何に組織の中に知恵を蓄えられるようにするか経営者の先を見透した手腕にかかっています。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一