先日のコラム(*1)で私は、「しかし、いつも、何か欠けるものを感じてきた。それは、自分自身の真に 『やりたいこと』、『やらずにいられないこと』 を実現するものではなかったからだ。」 と記した。これは、私だけでなく、全ての人の悩みでもあろう。
世の中、ICT技術が発展し、マーケティングの世界にも 「ビッグデータ」「トレンド分析」「ストーリーテリング」「カスタマージャーニー」「マスカスタマイズ」「協創」 といった言葉が次々に登場してきている。その一方で、ICT技術の発展により、顧客の生活様式も、ニーズも、購買の仕方も進化していく。更にICT技術の発展は、国境や地域、業種、業界、業態を越えたボーダレスな競争、ボーダレスな協業のビジネスインフラを実現しつつある。まさに、リーダーの資質としても、ビジネスエコロジーへの舵取りが問われるようになってきている。
『U理論』という文献の中で、著者であるオットー・シャーマーは、リーダーシップについて三つの観点が必要として、?リーダーが何をしたか、?どのように行ったか、?しかし、実質的にリーダー達の行動の源(ソース)となっているものは何かは問われなかったと記している(*2)。
マーケティングの世界でも同様のことが言える。かつてのマスマーケティングの時代からマスカスタマイズの現在を通して、?顧客は何を購買したか、?顧客はどのように購買したか、については様々な手法を駆使しての分析がある。しかし、実質的に顧客の購買という行動を起こす源(ソース)となっているものは何かは問われなかってこなかった。というより問われ得なかったというのが正直なところであろう。それは何故か、手法が発明されていないからである。
私が開発した 『その先メソッド』 では 、「目の前にいる顧客の深層のジーズ、その人の今だけでなく将来、そのひとの周りにいる人達」 を捉えてストーリーを描いていこう、そのためにものだけでなく ?“こと” ?にフォーカスして考えるプロセスを明確化してきた。
しかし、私自身の 『しかし、いつも、何か欠けるものを感じてきた』 を解決し深めていくためには、顧客の一人の人としての学習と成長、地域社会の学習と成長、組織としての学習と成長、社会全体としての学習と成長を、?顧客の購買の源(ソース)となっているものは何か、だけでなく更に深化させて、?顧客の行動の源(ソース)となっているものは何か、を追求する観点から問い直して行かなければならない。
我々日本人もそろそろ、システム中心の思考、成果中心の社会の枠組みでの思考、顧客中心と言いながら、それ自体も成果に組み込まれている矛盾をはらんだ顧客中心の思考から脱却し、真の人としての顧客との関係構築、人間中心の思考へと旅だっていかなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一
(*1) #21 見透せる化(9) それを観じて感じ取った時、行動せずにはいられない
(*2) C・オットー・シャーマー著、中土井僚、由佐美加子訳、「U理論 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な 『変化』 を生み出す技術」、英治出版株式会社、2010年11月25日