#30 将来の成長分野に経営資源を集中する (1) 社会の変化とトレンド

社会の変化を読み解いて将来の成長分野に経営資源を集中することは、Vision の構想に他ならない。

 

1.社会の変化を社会全体の視点で捉えてビジョンを描く
組織の中で活動する人達の目的として“ビジョン”を定めることが必要である。ビジョンは“経営理念”ではない。「いつまでに、どんな世界が実現する」という長期的な経営の目的と目標であり、“課題を解決していく方向性とプロセス(工程、アジェンダ)を描いたものでなければならない。 それは、社会や市場の変化をどう捉えるべきか、顧客がその企業をどう価値付けるか、従業員や取引先の人達がその企業とどう関わっていくかといった、共感でき信じる根拠となる。
組織の合理性や成長を目的にしただけのビジョンでは、社会や顧客から疎まれる。 “基軸”(基軸:物事の基本・中心となるもの。機軸:活動の中心。広辞苑第六版)とは、ビジョンを明確にする軸となる “信条”、“信念”、“人生観”、“世界観”である。軸が動くと全てが動揺してしまう。“経営理念”を示すための拠り所である。

 

2.背景にある潮流を勘案して、将来の成長分野を描く
将来の成長分野に経営資源を集中するためには、まずは、社会全体の視点で社会の変化を捉えることが重要である。
(1) 20世紀の発想に基づいて発展してきた社会の限界
高度経済成長期の発想に基づく社会通念、社会発展のための政策モデルに限界が見えてきている。そして、国などの枠組みで考えられてきた統治に対する反発から地方の独立意識も高まり、様々な地域で様々なリスクが巻き起こっている。

 

  • 右肩上がりの成長社会から、ものが社会に行き届きもの余りによる成熟社会へ
  • 少子超高齢社会、人口減少社会化
  • 社会保障への負担増大
  • 巨大箱物や大規模イベントへの投資による景気浮揚の限界
  • ゾブリンリスクに揺れるグローバル社会、独立を求める地域政府

 

(2) 経済の競争原理に基づく社会通念、共通の価値観の限界
遠く離れた国や地域の経済問題が瞬時に世界中を駆け巡り、為替相場の急激な変動、株式市場の乱高下、金利の変動等を招いている(坩堝化して混迷するグローバル経済)。サブプライムローン問題やリーマンショック、ギリシャ危機問題などはその典型的な事例である。ただ、それは一過性の問題ではない。長い目で見れば、競争原理に基づく経済発展モデルの限界(経済格差社会、若者の貧困問題、高齢者の貧困問題)を引き起こし、政策金利や量的緩和策により金融市場に溢れたマネーが投機資金となって庶民の生活を脅かし、公共投資による景気浮揚策がやがては国や地方の財政破綻につながるといった問題を引き起こし、挙げ句の果てに、低経済成長下での緊縮経済政策を余儀なくされることによりが市民生活を脅かされている。

 

(3) 国から地方への主権の移動
組織の効率性や権力の争奪に明け暮れる官僚機構が社会全体にとっての非効率性を生み出しているとの批判から、競争原理による民間活力の導入を求める動きが広がっている。また、国と地方の二重行政、紐付きの地方交付金による地域の実情に合わない政策を遂行しなければならないという問題なども顕在化してきている。

 

  • 地域の事情に即した事業への投資、地域の資源を活かした活性化に役立つ事業への投資、地域の自立意識の高揚、内発的に発展する社会、社会的共通資本、心豊かに暮らせる社会

 

(4) 重視される個人の権利
国や地方の政策、企業の利潤追求のための活動に依存してきた庶民自身の権利に対する意識が高まりつつある。

 

  • 人権(Human Rights)という概念の浸透、性別や年齢に関係なく活躍できる社会、個人情報の保護と知る権利の保護、同一労働同一賃金、雇用機会の均等、安心と安全

 

(5) 市民が自らの手で地域活性化をしていこうという様々な取り組み
地方への主権の移動、個人の意識の高まりは、競争原理による経済原理が生み出した様々な社会問題を地域に暮らす市民自身が解決していこうという動きを突き動かしつつある。

 

(6) 大量消費から一人ひとりのその場その時に合わせた満足、一人ひとりの生き方の実現へ
経済が成熟化した人口減少社会にあって需要は伸びず縮小傾向にある。社会も成熟化し、大量消費から一人ひとりが自分なりの生き方を大事にして心豊かな暮らしを求めている。

 

  • 社会、市場は、常に急速に多様に変化し、技術革新による変化に顧客ニーズも刺激されて変化している。
  • 技術革新による変化と顧客ニーズの変化が社会や市場を刺激して、新たな変化を引き起こす。

 

経済成長時の社会は“ものの消費の時代”だった。成熟社会では“量より質の時代(Quality of Life)”であり、更に今、一人ひとりが自分なりの生き方を実現するための“多様性の時代”に向けて大きく変化しつつある。

 

  • “多様性の時代”では“大量生産による低価格化の実現”という経済モデルでは対応できない。
  • “多様性を低価格で提供できる新たな産業構造や働き方の実現”という新たな経済モデルが必要であり、それを支えるプラットフォームを創造していかなければならない。
  • 新たなプラットフォームは“画一的なものの大量消費”ではなく、新たなプラットフォームによって “一人ひとりが自分なりの生き方を実現する”“その場その時に合わせた満足を実現する”が提供される。

 

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)