#9 事業投資を適性化するテクノロジー 組織をクリエイティブにする投資を優先する

内部留保が沢山あるからといって、それを設備投資に使いますか? それよりは、円安だし日本国内の人口減少社会を考えると、海外進出、特に現地法人の買収の方が得策だ、というのが今の風潮です。

 

大分以前の話になりますが、私は、同時期に2つの工場の自動化システムの開発に携わった経験があります。一方の工場は独自技術で世界一の製品を目指している工場で、もう一方は、大手企業から仕様(製品としては最先端の技術)を受けて生産する工場でした。世界一の製品を目指す工場は世界に勝てる自動化システムを構築しなければならず、もう一方は、受ける仕様に対応するための自動化システムの構築ということになります。当然のことながら、前者は先行投資でポジティブな取り組みでとなり、後者は今あるシステムの改良で投資にはネガティブな取り組みとなりました。
結果は歴然としており、前者は明るい雰囲気で一人ひとりが内発的に自律し生産性があかりグループの事業の中で業績を引っ張るまでに成長し、後者は低位の事業に甘んじることになりました。

 

私はまた、M&Aでどんどん事業を拡大する企業を見てきました。それまで独自技術で展開していた事業分野があるのに、トップからいきなりグローバル戦略で、同様の事業分野の企業を買収したから、これからは買収したその企業の製品を使うようにとの指示があり、営業もその製品を売ることで評価されるようになりました。当然、社内には様々なコンフリクトが生じ、モチベーションも下がるといった結果になりました。現在、その企業は業績が悪化し、事業の売却を繰り返しています。

 

事業への投資を考える際に、単に、M&Aによる企業規模の拡大といった財務戦略、グローバル化や拠点化といった視点での設備投資戦略だけでなく、人的資源への投資戦略という側面を考える必要があります。
事業への投資戦略バリエーション(History to Future 20151126-1)」参照。

 

そこには、既存のビジネスモデル、既存の部門の既得権益というものがあり、それが岩盤のような障害になる場合もあります。本コラムでは、「売上分析のテクニック」「利益分析のテクニック」について記してきましたし、また、「トレンド×感性×データを重ね合わせて分析することでビジネスの未来を見透す」ということにも言及してきました。データだけでなく、トレンドや顧客の感性も含めた分析結果を共有して 事業の投資を組織全体の中で合意形成することが重要となります。

 

企業を支えるのは人であり、一人ひとりが自律して内発的な行動を促す、人のモチベーションを高める投資というものがあります。事業への投資は目先のことではありません。目先のことを実現するだけではなく、長中期的に人を元気にし、事業を活性化する投資が本質的には必要です。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一

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