今、杭打ち工事のデータ流用が世間を騒がせている。これは、今後、建築業界、マンション等の不動産業界を大きく揺るがす問題である。
納期に間に合わせることが至上命令で、自分の遅れが後工程の作業にも迷惑をかける訳にはいかない。工事は指示通りやっているし、書面の体裁上の問題だけなら、報告書の形式させ整えておこうという文化が蔓延する。組織としてもみんなで目をつぶっていれば問題にはならないしとなれば、悪意がなくとも、誰だって報告書で他のデータを流用してその場をやり過ごそうとなる。 “誰だってそうしてしまう” のである。
ルーチンワークの効率を上げるためには、作業の標準化と徹底した無駄の削減が求められる。品質は当然のことであっても、全数検査に統計的な合理性がなく、抜き取り検査で十分なら、必要最小限の検査で済ませることは必然である。
とは言え、やらなければならない作業はデータ取りも含め、きちんと実施し報告しなければならない。これまで “きちんと実施する” ことは、現場の技術者のモラルとして守られてきた。
売上至上主義、利益至上主義、コスト削減と人手不足、人員のたらい回しが慢性化してくるとさすがにモラルとは言っていられない。データがなければを取らなければ、後で事故があった時に、「自分はちゃんとやっている」「私には責任がない」ことを証明できないから、やらなければならないという自己防衛のための作業となってしまう。
我々の技術立国という自負は、社会や組織の劣化とともに崩れ去ってきている。
作業プロセスの妥当性、報告書作成と検収プロセスの妥当性を担保する仕組み、 それらがきちんと遂行される仕組みが必要である。そして必ず対症療法の発想での改善策、再発防止策が講じられることになる。しかしそれらを、より厳格に規定して運用しようとすれば、現場はがんじがらめになり、管理のための作業に潰される。
人のモラルを云々する以前に、人がモラルを低下させない、モラルを支える仕掛けが必要である。今や、IoTの時代でもある。データ取りのシステム化(効率化、自動化)が、最低限の取り組みとして必要である。
このための技術開発や設備投資をはどんどん進めるべきだし、国家戦略として補助金や助成金の仕組みで促進するべきである。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一