その企業ならではの社会の持続可能な発展を実現する原動力となる能力、持続可能な成長の過程は、大量生産・大量販売・大量消費の成長モデルでは描けません。持続可能な社会の発展への思いそのものが価値となり、社会全体のメリットを社会全体へ訴求し、それを実現していく手法を開発してブレークスルーしていくことが必要となります。
【社会の持続可能な発展に向けた取り組みのポイント】
それではここで、上図に沿って、“社会の持続可能な発展”のためのフレームワークについて、押さえておくべきポイントを以下に整理しておくことにします。
- 高度経済成長期の大量生産・大量販売・大量消費のモデルでは、PPM、SWOT分析や競争戦略の手法が多用された。そこでは市場への訴求と経済合理性(例えば、量産効果でコストダウンできる)を基本原理として考えさえすればよかった。
- しかし、社会が変化し、社会性に訴求して企業ブランドの向上を図り、また、一人ひとりの個性(アイデンティティ)の実現に訴求し、多様性の向上(多様な価値観に対応する)を図ることが求められるようになってきた。
- こうした状況を打開しブレークスルーしていくためには、組織内で通用してきた経済合理性(例えば、分業化による効率化やコストダウン等)ばかりではなく、社会から見た合理性(例えば、安心・安全への対応、ユニバーサルデザインの導入、縦割りではなく組織横断した対応等)に訴求しうるような組織への変革、一人ひとりのニーズにきめ細かく対応しうる事業の創出(例えば、ものではなくサービスの視点から捉えた商品開発)が必要である。
- こうしたことを実現するためには、既存の商品や発想から離れ、持続可能という思いに視座する視点を移して、将来を思う事業軸を考えてみることが大事である。そこでは、市場性や合理性ということではなく、社会全体としてのメリットで社会全体に訴求する”社会の持続可能な発展”へのコンセプトが必要となる。
- 新たに創造したコンセプトの実現には、2通りのアプローチがある。一つは、社会全体に訴求しうるビジネスとして経済性を追求するアプローチと、もう一つは、経済性の追求を度外視して、市場に対して“社会の持続可能な発展に貢献する事業”への取り組みとして企業ブランドの向上を図るアプローチ(純粋に社会貢献事業とする)である。
- 前者のアプローチは、これからの社会における収益源となる事業の創出であり、直接的に企業の持続可能な成長につながる。社会性に訴求しつつも、それ以上に、一人ひとりの個性(アイデンティティ)の実現に訴求し、多様な価値観にきめ細かく対応する事業としてビジネスモデルを構築し、かつ、そこには収益をも生み出す効率性なりのビジネスロジックの構築も必要となる。
- 後者のアプローチは、企業の社会における存在価値を高めて、間接的に企業の持続可能な成長につながっていく。前者のアプローチではスケールメリットを生かすことはできないが、後者のアプローチによって、低価格による競争の場ではなく、ブランドの付加価値による優位性での競争の場に持ち込むことができるようになる。
- ・ビジネスロジックの構築においては、従来から使い慣れた PPM、SWOT分析や競争戦略の手法を活かすこともできる。また、市場分析なども同様であり、そこに社会的な視点、すなわち、社会的課題やその解決に向けた動向などの視点を加えればよい。
社会の持続可能な発展へのコンセプトとその実現に向けての2つのアプローチは、一度に行うことはできません。 【これからの企業経営のデザインコンセプト(設計思想)】に示しましたように、社会の持続可能な発展を実現していく上での6つの活動テーマ、企業が持続可能な成長をステージアップしていく3段階の過程を道しるべとして進めていくとよいでしょう。
言葉の定義
サステナブル | 直訳すると「持続可能な」「継続可能な」と訳すが、私たちは「社会の持続可能な発展」「企業の持続可能な成長」の文脈に位置付けて解釈する。顕在化している目の前の問題を対症療法で解決しておこう、当面の利益を確保しようといった発想ではなく、長期的な視点で社会的課題を解決につなげていこう、社会の持続可能な発展に結びつけていこうという発想で、将来にわたり継続していける事業をデザインし、企業の可能な成長を成し遂げていく。 |
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イノベーション | 創造的破壊、技術革新とも訳される。私たちは心豊かな暮らしのできる社会の創造を求める社会の変化や社会的ミッション活動が引き起こす社会システムの変革、経営システムの変革、組織の変革、技術革新と考える。 |