これからのイノベーションは、本質的に、社会関係資本の再生に関わるものとなる。
それは、人々の間に共感を育み、人々の間にある多様な意味を収斂させ、共有される意味の形成を促進するもの である。
すなわち、世の中で言われているような、単に、人間の身体的活動、意志の伝達に関わる様々な機能を、人工知能やロボットにより代替するものを創造することではなく、情報の送信側の意図を受信側の文化に照らして翻訳し、状況に応じて様々選択肢から受信側が自分なりの選択ができるように分かりやすく咀嚼して伝達して 、多様な文化や価値観の人たちの間で相互に意思疎通ができる、社会関係資本形成のための空間を創造すること につながるものでなければならない。
【認識すべき課題】 (時代背景、社会問題と背景要因)
- ロボットや人工知能技術が進化しシンギュラリティ(技術的特異点)に到達し、未来社会がこれまでとは異なる次元に突入していくと言われている。
- IoT、ロボットや人工知能技術は、職場、及び、社会生活への適用の場を増やしつつある。その結果として、ロボットや人工知能が人の労働機会を奪うとも言われている。
- 日本においては、高齢化と少子化が進むことで人口減少社会となり、人手不足が社会問題となってきている。
- 日本人の生活も仕事を中心にまわしていくものに固定概念化されてきた。
- 日本の産業行政は経済成長の視点から、合理性を追求する技術競争の枠組みに囚われるだけであり、未来を見据えた社会の発展に思いを至らせていない。即ち、インダストリー4.0などで主張されている人間を中心とした、また、豊かな自然環境の恵みを未来世代の人たちが享受できる社会の発展を目指した発想への転換がなされていない。それは、とりもなおさず、持続可能な社会の発展や人間の生存の根源にかかわる、総論ではなく具体論としての社会的合意を形成するための思考が停止していることによる。
- これまでの教育は労働市場が求める人材の育成に偏っている。また同様に、多くの企業研修のみならず、企業経営の考え方そのものも、大量生産・大量消費を前提とした高度経済成長期(社会生活の近代化を実現する技術、欧米を模倣しそれを超えていくための技術革新、ものづくりの発想)の成功モデルに根差したものに偏っている。
- 世界においては、人口増大へと向かっている一方で、中国やインドなどの人口の多い国において人口オーナス社会化に向かっている。
- 世界的に経済格差が拡大するだけでなく成熟経済化していく。地方政府は地域の利益を確保するために独立意識が高まり、大国同士も自国の利益ばかりを主張するようになっていく。
- これからのグローバル社会は、利己的な個人主義、自己実現の枠組みを超えて、多様な人々の人権が守られ、持続可能な社会の発展に全ての人が包摂され、各個人が経済的にも自立し、一人ひとりが夫々に求める心豊かさの実現に向かって自律して行動していける社会を目指していく。
【未来における社会的価値の創造】
- 人工知能の役割は、本質的に、人が意思疎通するために必要な知識の積極的な提供ということになる。(一方、これまでのような、検索して必要な知識を得られるようにすることは、言わば消極的な提供ということができる)
- 人は、生きていくために経済的豊かさを追い求め、現象を記述する数学モデルを作成して機械的に儲けを競い合うのではなく、社会の持続可能な発展を目指した生き方、心豊かな暮らし方ができ寛容な社会を築いていくための知恵を学習していくようになる。
- 人に求められるのは創造的な仕事となる。それは、クリエイターばかりでなく、新たな仕組みを生み出す仕事だったり、繰り返されることのない新たな状況に対する判断だったりする。
- 人が担うべき仕事とロボットや人工知能が担うべき仕事の役割を分担することによって、人はより自分らしく自己実現に結びつく仕事、更には、自己超越して他者や自然環境とも一体となり、社会の発展に結びつく仕事に集中できるようになる。
- ロボットや人工知能が担うことのできる仕事を役割分担することで生産性が向上する。
- 人は時間や場所に拘束される仕事に追われる日々から解放されて、より時間的にゆとりのある生活を送くれるようになる。
- 仕事や家事、介護や看護に追われることなく、自分らしい、こんな暮らしがしたいという暮らし方を実現することができる。
- 人は、経済合理性の発想によらず、社会の持続可能な発展、人夫々の心豊かな暮らしを実現していくための発想に根差した産業への転換を図っていくことができるようになる。
本コラムは、『#129 人とロボットや人工知能が連携するクオリティの高い社会を実現するイノベーション』 について、「認識すべき課題」「未来における社会的価値の創造」の面から考えるべきことを掘り下げて列挙したものである。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一