価値創造の構図

 これまでの企業の経営や組織についての知見は、高度経済成長期の大量生産・大量販売・大量消費の時代に確立されたものです。そのため、企業は、個々人の生活のシーンに合わせたニーズに応えるというよりは、セグメント化された市場において標的(ターゲティング)とされた顧客層の類型化されたニーズに対して商品を提供すれば良いというものでした。大数の法則により、画一的に大量に生産することでコストを下げることができるので、社会に商品が行き渡っていない時期に、大量に安くモノを供給できる仕組みとしては理に合うものでした。
 プラットフォームという考え方は、個々の商品を販売するだけでなく、その商品を使うために必要な消耗品などを販売することでも継続的に収益を得ることができる様にしようとして考案されたものです。言わば、儲けを継続的に生み出す基盤がプラットフォームということになりますが、プラットフォームが売れれば、長期的に顧客をロックオン(囲い込む)することができるという効果も得られます。そこで、何をプラットフォームとして事業を展開し、何で儲けを出すかということは、事業戦略の大きな柱ともなります。
 また、この時期の社会構造は、民間部門のと公共部門が分離されており、企業の価値創造の構図から社会は隔てられていました。このため、公器といての企業の役割は、生活に必要なモノが足りていない状況で、良いものを安く大量に供給することで暮らしを良くするということ、および、利益を出して法人税をきちんと払って公共部門の財源確保に役立てることという認識でしかありませんでした。
 
 市場に商品が行き渡り、生活に必要なモノが充足して経済が成熟化してくると、大量生産・大量販売・大量消費という価値創造の構図は崩れはじめます。また、近代化や産業化や工業化に邁進した経済成長をしていく社会が次第に落ち着いてくると、人々の関心は自己の存在そのものに向けられる様になります。そして、個々人の個性を大事にする生き方が広がることにより社会の成熟化も進展していきました。
 人は、自己実現を欲するものですが、だからと言って、自己実現すれば満たされるという訳ではなく、人間関係によって得られる心の豊かさ、社会全体が発展することによってもたらされる寛容さのある暮らし(他人との競争に明け暮れない暮らし)、高い文化のある暮らし、癒しのある暮らしによって心の豊かさを満たそうとするものです。
 そこで、社会全体の発展を考えなければならないとういうことになりますが、個々人の生き方(価値観や思い)や日々の活動(暮らし方や働き方)、そうした生き方や活動の根底にある社会の風土や基盤となる社会システムを夫々に考えても、社会全体としての発展にはつながりません。 これらの夫々について考えながらも、これらを統合した枠組み全体としての発展を考えなければなりません。 そして、社会全体の発展を考えるということは、とりもなおさず、未来社会の価値を創造するということに他なりません。すなわち、これからの価値創造の構図は、未来社会における個々人の生き方、未来社会における個々人の生き方を支える技術、未来社会における社会的風土、未来社会における社会システム全体を考えたものになります。
 また、未来社会の価値を創造する上でのプラットフォームは、これまでの知見におけるプラットフォームの発想とは全く異なるものであり、未来社会における個々人の生き方、未来社会における個々人の生き方を支える技術、未来社会における社会的風土、未来社会における社会システム全体を実現する “未来社会における生活のプラットフォーム(基盤)” となるものです。そして、そのプラットフォームを具現化したものが個々の商品ということになります。

 尚、この「価値創造の構図」は、ケン・ウィルバーが示したインテグラル理論を参考に、当社が「未来社会に向けた価値を創造する」という視点から意味付けし考案したものです。

参考文献 ケン・ウィルバー著,松永太郎訳,『インテグラル・スピリチュアル』,春秋社、2008年,p.56 (原著、KEN WILBER, “INTEGRAL SPIRITUALITY A Starting New Role for Religion in the Modern and Postmodern World” , 2006.