今起きているパラダイムシフト

これまでの社会の発展の歴史を振り返ると、ひとつの技術革新が新たな社会の変化を創り出し、社会に定着している通念をも変化させ、社会変革をもたらしてきたことを見てとることができます。それは、工業技術に限らず農業技術の発展の中に見出すことができます。
 
パラダイムは、ものごとをどの様に捉え、どの様に認識するかについて、暗黙に共有されている枠組みと言えます。変化していく社会の中では、既存の枠組みを守ろうとする人達と新たな枠組みで既存の社会を変革しようとする人達の間でのコンフリクトが生じます。
 
しかし、社会の変化は、同時に新たなニーズを生み出し、新たなニーズは新たな発想の技術が芽生える土壌を育み、既存の様々な技術と組み合せつつ新たな技術革新を生み出していきます。
 
この様に、一時の時代を形づくったパラダイムは、常に、その作り出した時代を背景に移ろい次の時代を創り出していく、すなわち、パラダイムはシフトしていくものだと言うことができます。
 

今起きているパラダイムシフトとは  「経済的に成長していく社会」から「持続可能な社会の発展」へ

21世紀に入って以降、20世紀の工業化を背景とした経済成長が停滞し、むしろ、そうした経済成長一辺倒の社会発展モデルが引き起こしてきた多くの社会問題が顕在化してきたというのが現代社会と言えます。それでは、そうした時代を背景として、今の時代に起きつつあるパラダイムシフトとはどの様なものでしょうか。

  • かつての高度経済成長時の社会は “ 画一的なものの大量消費の時代 ” だった。 しかし、経済が成熟化した現在の社会は、“ 量より質を求める時代(Quality of Life)” であり、私達一人ひとりが、自分なりの生き方を大事にして心豊かな暮らしを求めている社会である。
  • こうした成熟社会は、すなわち、一人ひとりが自分なりの生き方を実現する “ 多様性の時代 ” であると言える。そしてそれはまた、“もの” の視点の発想ではなく、“ 実現したいこと ” の視点での発想の転換が求められる時代でもある。
  • 私達一人ひとりが求める心豊かな暮らしは、次の世代の人達にも、またどの地域に暮らす人達にとっても、同様に求めることができなければならないという新たな発想への転換も求められている。
  • 今はまた、一人ひとりが情報発信者となって、様々な情報をネット上で伝えることのできる社会でもある。 こうした技術的背景のもと、“ 多様性の時代 ” では、一人ひとりの考え方やニーズの変化が刺激となって、社会や市場の多様な変化を巻き起こしていく。 そして、社会や市場の変化が新たな刺激となって、一人ひとりが求めるニーズも、更に変化していく。
  • イノベーションは単なる技術革新ではない。 本来のイノベーションは、一人ひとりの考え方やニーズを刺激し社会や市場の多様な変化を巻き起こしていくだけの強い影響力を備えている。 そしてまた、そうしたイノベーションが巻き起こした社会や市場の変化が新たな刺激となって、更なるイノベーション(創造的破壊と新結合)が興こされていく。
  • “多様性の時代” では “ 大量生産による低価格化の実現 ” という経済モデルでは対応できない。“ 多様性を低価格で提供できる新たな産業構造や働き方の実現 ” という新たな経済モデルが必要であり、そこには、それを支えるためのプラットフォームも必要である。
  • こうしたプラットフォームは “ 閉じた世界で作られた画一的な仕様のもの ” ではない。 多様な考え方やニーズを実現する上でコンセンサスのとれたものであり、オープンな環境の下で生み出され、一人ひとりの生活や働き方の中で共通の基盤として受け容れられ、次第に浸透し定着していくものである。