これまで考えられてきた「働く」ということは、端的に言うなら、与えられた職責を果たす、与えられた仕事(職務、作業、役務)をこなすことでした。ここで与えられたとは、上司からの指示であるとか、分業によって役割分担された業務であるといった意味合いがあります。個々人にとって「働くこと」は、人生を豊かにする最も基本的な経済活動でもあり、その対価として様々な報酬が与えられ、日々の糧を得て生活を支える手段でるとされてきました。
しかし、21世紀の現代にあっては、「働くこと」に生き甲斐や働き甲斐を感じられるかということも重要な要素として捉えられるようになってきました。20世紀の心理学者にはこれを「自己実現」という言葉で表現してきましたが、今ではもっと内面から、各個々人の「生きる目的」に位置付けて「働くこと」を捉えていこうという意識がグローバルに合意形成されてきています。
ここで、当社ではこの各個々人の「生きる目的」に位置付けて「働くこと」を捉えるということを、以下の3つの軸でモデル化して表現しています。この3軸モデルの世界観によれば、「働く」ということは、手前右上に行けば行くほど創造的に対外的に自発的に働きかけていくということに意味づけられた「働き方=良き存在、幸福に過ごす」になります。
- 社会や他者のためか、組織防衛(自分自身の保身)のためか
- ポジティブに受けとめられるか、苦役なのか
- 未来創造に向かうのか、既存の既定業務をこなすのか
「働くこと」は、21世紀の現代にあっても「分業」の中で役割を担うということに変わりはありません。その意味で「働く」ということは、「組織の中で働く」ということでもあります。そして組織自体にも文化があり、個々人がどの様に「組織の中で働く」かについての規範のようなものもあります。従って、「組織の中で働く」ことの3軸モデルは、個々人の働き方を定義するモデルであると同時に、組織文化として「個々人がどのように組織の中で働く」かを規範的に定義するモデルでもあると言えます。
- 作用の方向:組織の中で「働く」ことが外界(社会、自然環境)への貢献のためなのか、組織の維持のためのものなのか、中間的に現前の目標を達成するためなのか
- 受容の方向:組織の中で「働く」ことが心の中でポジティブに喜びとして受けとめられるか、ネガティブに苦役として受けとめられるか、中間的に現前の目標を達成するためと漫然と受けとめるか
- 価値創造の方向:組織の中で「働く」ことが未来(現実世界に存在しない)のモノやコトを創り出すか、既存のものやことを遂行するために決められたことを実施するか
「組織の中で働く」ということは、本来、社会や他者に、そして、組織や自分自身に創造的に働きかけることであり、上記世界観でいう手前右上を目指していくことに他なりません。すなわち、「社会の中で自立し、組織の中で自律して行動する」という働き方が「善き存在」「より善く生きる」「幸福である人生を送ること」という、人としての本来の働き方なのだろうと考えられます。
ここで一言付け加えるなら、人というのは「社会的生きもの」ですので一人では生きていけないし、一人で何かするよりも色々な人々と心のやり取りをしながら働いた方がより生産てきになるとも言えます。それは、分業して機械の歯車のように働くのではなく、協働することによって実現されます。“Well-being”とはこのようにしてこそ成されるべきものと言えます。
“Well-being” を志向する組織文化を棄損する要因
ところで、「各個々人の組織の中で働き方のモデル」と「組織文化として個々人がどのように組織の中で働くかを規範的に規定するモデル」が組織の中で一致しない時、組織と個々人は激しく対立することになり、“Well-being” を志向する組織文化を棄損する要因となります。
下図は、そうした「“Well-being” を志向する組織文化を棄損する要因」をさらに細分化したものです。「組織能力マネジメント」の目的は、こうした「棄損要因」が、どこにどのように存在しているかを監視し、どうして存在しているかをその深層を掘下げて分析し、組織を変革していくことにあります。
- 表層1:パフォーマンスが低い(低下している)(Financial、[V])
- 表層2:パフォーマンスが低い(低下している) (Customer、Process)
- 表層3:パフォーマンスが低い(低下している) (Competitiveness、[Organization])
- 深層1:オーディリー・ケイパビリティ (能力の不足) (Capability、[O] )
- 深層2:経営環境の変化に対する壁を築いている
- 深層3:経営環境の変化に対して、まずは否定してかかった方が得だと考える習慣がある
- 深層4:お互いに抑鬱的に抑え込んで、自由闊達な意見を出させない雰囲気がある
- 深層5:濁りきった空気の職場である
◇外部環境が悪化している ◇売上が低下している ◇利益が出ない ◇事業の回転が悪い
◇コーポレートブランドが弱い ◇売れていない商品である ◇シェアが低下している ◇きめ細かい品質管理ができていない ◇組織的コスト削減が不十分である ◇ビジネスの回転でキャッシュフローを賄えていない ◇資金調達力が弱い
◇商品力が弱い ◇販売力が弱い ◇ビジネスモデルが弱い ◇開発力が弱い ◇技術力が弱い ◇顧客訴求力が弱い ◇プロセス改革力が弱い ◇財務統制力が弱い ◇社会性が弱い
◇プロデュース能力の不足 ◇顧客目線で考える能力の不足 ◇顧客中心に行動する能力の不足 ◇訴求力のある商品を創造する能力の不足 ◇技術革新能力の不足 ◇ビジネスモデル構築能力の不足 ◇業務改革能力の不足 ◇品質向上の能力不足 ◇財務に対する直観力の不足
◇社会、市場の変化にから目を背けている ◇創造思考に背を向けている ◇独自の技術・知見を活かせない ◇作業の規定化が難しい ◇環境変化に対応する標準化を阻害する ◇協働のための連携・調整ができない
◇変化を否定(拒絶)してその意味を認識できない ◇変化を否定(拒絶)してマネジメントしない ◇変化を否定(拒絶)して組織行動しない
◇状況を直視しない雰囲気がある ◇小手先の対応で済むと認識してしまう ◇目の前のことだけを考えていれば良いとする ◇何よりも既存事業に固執する雰囲気がある ◇利己的な組織である ◇組織が縛っている
◇情報活用がうまくできていない ◇課題を放置し、誰も改善しない ◇課題を放置し、誰も改善しない ◇自律的に行動しない ◇人間性が大事にされない ◇内発的に動機付けされない ◇人格の陶冶がなされない ◇やる気を削ぐお金の使い方である
なお、これら「棄損要因」に影響を及ぼす心理的要因として想定されるものとしては、◇同調圧力 ◇服従の心理(代理状態、ミルグラム実験、アイヒマン実験) ◇社会的ジレンマ ◇認知的不協和 ◇感情バイアス ◇正常性バイアス ◇現状維持バイアス ◇確証バイアス ◇帰属バイアス ◇アンカリング ◇フレーミング効果 ◇ウィンザー効果等、を挙げることができます。
「組織能力マネジメント」が具備すべき基準
「組織能力マネジメント」を実施していくには基準が必要となります。それが以下に示す「“Well-being” を志向する組織文化と働き方の要件」「“Well-being” を志向する組織文化と働き方の条件」となります。
“Well-being” を志向する組織文化と働き方の要件
- 文化として志向していくべき要件
- 目的妥当性:社会、市場の持続可能な発展への貢献が“根底にある目的”であること
- 目標妥当性:目標の実現だけでなく、その過程を通して”やりがい”を得られうること
- 組織文化として具備すべき特性
- 社会性:持続可能な社会、市場の発展に資すること(「社会発展の条件」も参照下さい)
- 公正性:法令を遵守し、法令や倫理を遵守し、かつ、個々人の人権、自然環境の保護が確保されていること。社会規範、法令、社会通念上の倫理が満たされていること
- 経済性:企業としての利潤の追求ばかりでなく、社会全体としても、ステークホルダーにとっても、経済成長に資すること。想定しうるコストの下で業務が実現可能であること
- 多様性:多様な個性、価値観を持つ人達が夫々の専門分野で活かされていること
- 社会的包摂性:様々な立場の人々をも含め、社会(地域社会)の一員として取り込み、支え合うこと
- 内発性:自らの思い、意思による行動が生かされていること
- 自律性:自らが自らの職責の範囲で正当な規範を持って周囲の人達と調整して協働していること
- 自己同一性:一人ひとりの個性や独創性の確立、周囲もそれを受容し尊重していること
- 連帯性:仲間とのつながりがりを実感でき、お互いに働き甲斐を感じていること
- 創造性:自ら「独自に知恵を絞り出して」「発案した」「創造した」を促進すること
- 創発性:自ら創造し、そうした人達が相乗し、それ以上の創造を促進すること
“Well-being” を志向する組織文化と働き方の条件
- 組織文化は如何に構築することができるのか(必要条件)
- 対象設定:事業の範囲、対象が明確であること(これまでの事業の範囲に囚われていないこと)
- 目標設定:具体的で、根拠のある数値で示されていること
- 工程設定:社会、市場の持続可能な発展のプロセス(アジェンダ)が示されていること
- 組織文化は如何に構築することができるのか(十分条件)
- 効率性:個々の業務が効率的であること
- 正確性:個々の業務が正確に定義さてていること
- 安全安心性:個々の業務の安全性か確保されていること
- 実現可能性:持っている能力に対して過負荷なく実現しうること
- 習得容易性:業務遂行に必要な能力を学習することができ、学習を積んで上達しうること
- 開放性(オープン):組織内外に対してオープンであること
- 公平性:誰もが分け隔てなく平等であること
- 客観性:客観的なデータに基づいていること
- 情報妥当性:社会や市場に関する客観的な情報原であること
- 透明性:組織内の人達が共有できる文章と媒体によって示されていること
- 共感可能性:職場や同じ思いの人達との共感を得られうること
- 周知徹底:組織内の全ての人達に伝えられ、理解されていること