これからの社会は、社会的課題解決競争の時代である。今、殆どの大手企業は、財務諸表の開示ばかりでなく、自然環境保護への取り組み、雇用や労働環境の視点からの人権への取り組み、社会的課題の取り組みを一緒に開示している。創業の理念に社会的課題の解決に向けた取り組みを掲げているベンチャー企業も多い。
社会的課題解決への取り組みは、企業ブランドを高めることを理解している経営者が増え、他社よりも自社が、より積極的に有効な方法で取り組んでいることを誇示しようとしている。株主にしても、企業ブランドが高まることに反対する者はなく(むしろ、環境、社会、ガバナンスへの取り組みが不十分であることに起因して不祥事を起こし企業価値が下がってしますことのリスクを避けようとしている)、株主の利益が損なわれない限りにおいては社会的課題解決への取り組みを容認している。
社会的課題解決への企業としての取り組みは、社員がボランティア活動を支援することだけでも、企業として社会的課題解決に取り組んでいる企業と協業したり資金を提供したりして支援していることだけでも、消費者からの売り上げの一部を寄付したりすることだけでもない。社会的課題解決の市場とは、本業そのもので社会的課題を解決する取り組み、あるいは、本業である事業を通して社会的課題を解決していく取り組みが創り出す市場のことである。例えば、廃棄物の再生や再生可能エネルギーに取り組んでいる事業者は前者に相当する。農業事業者が自ら、有機農法で収量を増やす技術革新を起こす、気候変動に対応できる品種への改良や連作の可能な農地への改良技術を開発する等は、食料問題を解決するという目的では前者に相当する(食料問題を解決するために自然環境を破壊してしまうのであれば、社会的課題を巻き起こしている事業者ということになってしまう)。自然環境への負荷のない原材料を活用した製品を開発するという取り組みは後者に当てはまる。物流の仕組みを変革し社会システム全体として交通量を削減し、かつ、エネルギー消費を抑えようとする取り組みは、社会的課題解決につながるので後者に属すると言えよう(単に、物流コストの削減を目的とする物流システムの開発は社会的課題解決にはつながらない)。
プロダクトの市場は、ただ単に収益を上げる目的で市場を捉えるなら社会的課題解決の市場創出とはならない。しかし、社会システムの中にプロダクトを位置づけて、市場の変革を通して社会的課題を解決していこうとするならば、社会的課題解決の市場創出につながり、未来社会の持続可能な発展につながっていく。
社会的課題解決の市場は、自社のビジネスだけではなく、プロダクトに関わるサプライチェーン、バリューチェーン全体のビジネス環境として捉えていくことも重要である。こうしたビジネス環境全体を生態系として捉えるビジネスエコシステムに注目が集まってきているが、ビジネスエコシステムが社会的課題解決に適した環境になっていく様にすることも社会的課題解決の市場創出にとって不可欠である。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一